冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 いつそんなことを考えていたのだろうか。突拍子もない発言に目を見開く。

「さすがにいつまでも瑠衣と悠翔と離れて暮らすのはつらい。俺だけ仲間外れだ」

「いや、そういうつもりじゃ……」

「家を買おうって突っ走るほど、俺にとっては瑠衣や悠翔が大切なんだ。だからそろそろ瑠衣の本当の気持ちを聞かせてほしい」

 翔平がグラスを置いてわたしの方へ向いた。

「三年前のバーで別れた日のことを覚えているか?」

「あ、うん」

 わたしが決死の覚悟で翔平に別れを切り出したあの日。

「あの日俺、お前にプロポーズするつもりだった。ニューヨークについてきてほしいって。俺さ、振られるなんて微塵も思ってなくて向こうでふたりで住む部屋まで探してさ。浮かれてたんだ。瑠衣が妊娠してひとりで悩んでるなんてこと知らなかった。あのとき瑠衣はどういう気持ちだった? 教えて」

 三年前の話。けれどこれは今さらの話じゃない。これからわたしたちがともに歩むために必要な話だ。

「あのときはただただ不安だった。お姉ちゃんから翔平がアメリカに行く話は聞いていて、それは翔平の夢が叶うってことだから応援したかった。でもわたしや悠翔がいると思い切り研究に没頭できないかもしれない。わたしだって知らない土地で妊娠出産する勇気もなかった。それに」

 言うのを一瞬ためらったけれど伝えた。

 それは彼がわたしの言葉を一切否定せずに、聞いてくれたからだ。間違っているだとか、違うだとか。過去のわたしを否定しないでいてくれたから言える。

「翔平に愛されてる自信がなかった。付き合っているかどうか、はっきりと言葉で言われてなかったし。そんな状態で子供ができたって言って、責任で結婚なんて嫌だったの」

 わたしは彼の目を見て伝えた。

 翔平は優しい目でわたしを見つめ返してくれる。

「わたしは、本気であなたを愛していたから」

 彼はなにも言わずにわたしの目を見つめてくれている。

 そして彼の手がわたしの髪を優しく撫でた。

「やっと聞けた。やっとだ」

 翔平の手がわたしの頬を包み込む。まっすぐに向けられた瞳から彼の気持ちが伝わってきた。こんな風に喜んでもらえるならば、なぜもっと早く伝えなかったのだろうか。

「瑠衣。俺もお前を愛してる。三年前からずっと、忘れたことなんてない」
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