冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「翔平。わたしあなたをたくさん傷つけた。悠翔のことも黙っていて、三年間あなたの父親としての権利を奪った。それはもう取り返しがつかないことだけど……」

 妊娠中生まれてくるのを楽しみに待つことも。生まれた瞬間に抱き上げることも、二歳までの成長を見守ることも、その楽しみをすべて彼から奪ってしまった。もうその時期は戻らないのに。

「確かに、悠翔の成長を見逃したことは悔しい。だけど原因は俺にあるだろう。三年前俺がきちんとお前を愛してるって伝えていれば、きっと瑠衣は違う選択をしたはずだ。困難だと思ってもアメリカにもついてきただろ。違うか?」

「違わない」

 きっとあのとき翔平の愛を信じられていたら、なにも怖くなかったと思う。でも……はじめて人を本気で好きになったわたしは、自分の気持ちを素直に伝えることも相手の気持ちを聞くこともできなかった。

「恋愛はふたりでするものなのに、わたし全部自己完結してたね。ごめんなさい」

「またそうやって謝る。でも俺は瑠衣には感謝しかないよ。悠翔を――俺の息子を産んで育ててくれて。誰のものにもならないでいてくれた」

「だってそれは……」

 わたしは翔平の首に手を回して彼を抱きしめた。

「だってそれは……わたしが好きになれるのは翔平だけだから」

 答えはとてもシンプルだ。

「瑠衣」

 翔平の顔が近付いてきた。形のよい瞳に吸い込まれる。

 こうやって自分をいつもまっすぐ見てくれるこの目が好きだ。今彼の瞳にはわたししか映っていない。ごく当たり前のことなのに、そのことがすごくうれしい。

 唇がゆっくりと重なった。角度を変えその都度深くなっていく。下唇を軽く吸われ薄く開いた唇の間から彼の舌が入ってくる。わたしはそれを迎え入れて、彼に応えた。

 お互い欲しすぎていてキスが止まらない。翔平がわたしをソファに押し倒すと間近で目が合う。

「なあ、瑠衣。三年前に言えなかった言葉。言わせて」

 わたしが頷くと、翔平は微笑んだ。

「瑠衣、結婚しよう。俺と家族になろう」

 予想のできる言葉だったのに、感動で胸が締め付けられるほど痛い。ずっと彼から欲しかった言葉。すぐに返事をしたいのにどんな言葉で今のこの気持ちを伝えたらいいのかわからない。

 わたしはギュッと彼に抱きついた。

「よろしくお願いします」

 そう呟くと翔平がわたしの耳元で囁いた。

「よろしく、俺の奥さん」
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