冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「愛してる。なあ、だから俺の全部受け止めて」

 そう言った翔平は言葉通りに思い切りわたしを抱いた。そしてふたりの境界線がわからなくなるほど求め合い、溶け合った。




 翌日は早くに目覚めた悠翔に起こされて、朝ごはんを食べた後三人で海に向かう。悠翔はこの間の水族館に行く途中で海を見たが近くで触れるのははじめてだ。

 波打ち際まで翔平が抱っこして連れていく。悠翔を下ろした瞬間に波が押し寄せてきたことに驚いてしりもちをついた。

「わーーん、パパ」

「悠翔!?」

 大泣きする悠翔を翔平が慌てて抱き上げた。

「まだ怖かったか。ごめんごめん。でももう一回呼んで」

「あっち、いくの!」

 悠翔は早く波から遠い場所に逃げろと、翔平に言っている。

「なぁ、パパってもう一回言って」

「あっちー!」

 会話が成り立たないふたりの背中を、わたしはクスクスと笑いながら追いかけた。

 翔平と砂浜に並んで座る。少し離れたところで、悠翔が砂で山をいくつも作っていた。最近砂場遊びが好きな悠翔にとっては、ここはどこよりも大きな砂場だ。目を輝かせながら一生懸命遊んでいる姿に、わたしも翔平も目を細めた。

「なぁ、瑠衣」

「ん~」

 ふたりとも視線は悠翔に向けたまま。

「毎年来ような。ここに」

「うん。そうしようか」

「悠翔がでっかくなって、生意気になって『親と旅行なんか恥ずかしい』って言い出しても、ふたりで必ず来ような」

 悠翔にもきっとそういう時期が来るだろう。けれど早くもそんな想像をしているなんて、翔平はなんて気が早いんだろう。

「わかった。ふたりっきりで来るのも……楽しみだね」

「ああ。ここで今日のこと思い出すのかな」

 そうかもしれない。そんな未来を思い描くと自然と顔がほころんだ。

 砂浜についていた手に、翔平の手が触れギュッと握ってきた。

 暖かい日差しの中、潮風に吹かれながらわたしたちの約束がひとつ増えた。




 それから三カ月後。

 わたしと悠翔は山科から、君島になった。

 真っ白なウエディングドレスに身を包んだわたしを、鏡越しに見つめる翔平がいる。

「綺麗だよ、瑠衣」

「ありがとう」

 ストレートな褒め言葉に、少々照れるが好きな人にそう言ってもらえてうれしい。
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