冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「すぐキスしたいけど、メイクさんに怒られそうだからやめておく」

「もう! またそういうこと言う」

 いたずらっぽく笑う翔平の肩を押すと、彼が抱きしめてきた。

「もうしわになっちゃう」

「いいから、ちょっとだけ」

 そんな風に言われてしまうと、わたしも仕方がないと許してしまう。後ろから回された彼の腕にわたしも手を重ねた。

 わたしの首筋に彼が顔をうずめるからくすぐったい。

「なぁ、本当に写真だけでよかったのか? 結婚式したくならないか?」

「うん、写真撮るだけで十分。こんなにカッコいい翔平見られるし満足だよ」

「そうか、だったらいいけど」

 なんで翔平が不満げなんだろう。こういうの男の人の方が苦手だと思ってた。

「せっかく綺麗なんだから、みんなに自慢したいだろ。俺の奥さん」

「もう、翔平! からかわないで」

 頬を膨らませるわたしに、彼が小さなキスをした。

「本気だけどな。まあ俺と悠翔が独占できるって思えばいいか」

 実は今日は悠翔も一緒に撮影することになっている。タキシードを着たちっちゃな紳士は今、写真スタジオの庭で、父に一眼レフのカメラでたくさん写真を撮ってもらっていた。

「それがね……今日の撮影三人じゃないの」

「え。どういうことだ」

 不思議そうに言う翔平の耳元で、小さな声で伝えた。

「お腹に赤ちゃんがいるの」

 翔平は口を半開きにしたまま固まってしまった。

「ねぇ、聞いてる」

「赤ちゃんって、ここに?」

 わたしのお腹に翔平が手を当てた。

「そう、ここに。あなたとわたしのふたり目の子供がいるの」

 彼はわたしの顔とお腹を交互に見た。目が合うたびに彼の顔がほころんでいく。

 そして――。

「やったー!」

 まるで子供のような叫び声をあげた彼はわたしをギュッと抱きしめて、慌てて力を緩めた。お腹の赤ちゃんを気遣ったらしい。そしてもう一度、今度は優しくわたしを抱きしめなおしてくれた。

「瑠衣、あぁ瑠衣。なぁ、こんなにうれしいんだな」

 こんなに無邪気に喜ぶ翔平は、なかなか見ることができない。でも再会して以降はこんな風に素直に感情を表に出してくれることが多くなった。

 それはわたしも同じだ。

「次は一緒にお腹の子見守っててね」

「当たり前だろ。なんか俺、女の子の気がする」

 性別がわかるのはまだまだ先の話なのに……。
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