冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 三年前のわたしじゃない。わたしは悠翔の母親なのだ。もし翔平がそばにいることで、昔みたいに心がかき乱されて、彼の行動のひとつひとつに胸を焦がし一喜一憂するようなことがあってはいけない。

「……い、瑠衣!」

「え? あ、ごめん」

 じっとひとりで考え込んでしまっていた。慌ててわたしは視線を翔平に向ける。

「俺たち家族にならないか?」

 翔平は答えを急かすようにもう一度わたしに聞いた。

「色々と心配なことはあると思う。だけどやってみなくちゃわからないだろう」

 確かに翔平の言う通りだ。でも今はふたりだけの問題じゃない。悠翔も巻き込む話だ。もしうまくいかなければ、悠翔も傷つくことになると思ったら容易に頷くことなんてできない。

「ごめんなさい……もう少し考えさせて」

 翔平をがっかりさせただろうと思い、彼の様子をうかがう。

 しかしわたしの予想とは裏腹に、彼はなんだか楽しそうだ。

「まあ、そう来るだろうと思ってた。昔から瑠衣はひと筋縄ではいかない女だもんな」

「なに、どういうことよ?」

 なんだかめんどくさいと言われている気がする。

「いや、そういうところ好きだなって」

「な、またそんな軽い調子で!」

 怒ったわたしを見て、翔平はけらけらと笑っている。

「もう、あんまり大きな声で笑わないで。悠翔が寝てるんだから」

「悪い……そうだったな」

 翔平は肩を竦めて、悠翔が寝ている部屋の引き戸の方を向いて起きていないか確認した。

 中から物音がしない。ぐっすり眠っているようだ。

「とにかく、俺は諦めないから」

 そう宣言した翔平は、残りのコーヒーをぐいっと飲み干すと立ち上がって玄関に向かった。

 彼を見送る。

「今日はありがとう、本当に助かった」

 代わりに料理をしてくれたおかげで、仕事に集中することができた。これがひとりならどちらにも気を取られて結局中途半端になってしまったに違いない。

「俺がいると助かるだろ? だから早めに決心して。俺は絶対諦めないから、早く降参した方が身のためだぞ」

「なによ、降参って」

 呆れ顔のわたしを見て彼が笑った。その笑いが伝染して思わずわたしも笑い出してしまう。

 すると翔平が一歩わたしに近付いた。そして彼の手がわたしの頬に伸びてくる。

 そういえば翔平はよくわたしの頬を撫でていた。それが思い出されて思わずびくっと固まってしまった。
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