冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「賢いかどうかは置いといて……ある程度理解はしてると思う。だから嘘はつけないんだよ。予防接種に行くときもちゃんと『お注射するよ』って言って連れていくの。そうしないと次から信用してもらえないから」

「そうか……そうだよな。俺もちゃんとしなきゃな。子供だからって見くびらないようにしなきゃ」

 気が付いたのだけれど、翔平はわたしの子育ての方針には一切ダメ出ししない。昔わたしの恋愛に散々あれこれ言った人物と同じとは思えない。それくらいわたしの意見を尊重してくれた。

 そしてそれを彼も実践してくれているおかげで、なんとなく三人の形みたいなのができてきたように思う。

 悠翔の手や口を拭いたり、こぼしたお菓子を拾っている姿はどこからどう見ても父親だ。

 アナウンスが流れて、イルカショーがはじまる。目の前に大きなイルカが現れたと思うと思い切りジャンプした。

 悠翔は巨大なイルカがジャンプする姿を見て、大きな口を開けて見つめている。きらきら輝く目を通して見るイルカは彼にどんな風に映っているのだろうか。

 思えばお出かけらしいお出かけってほとんどしてないなぁ。車もないし、電車もベビーカーを使っているとなかなか肩身が狭いから。

 翔平がいてくれることで、今まで見せることができなかったものや、体験できなかったことを、経験させることができる。

 自分ひとりでなんとかできると思っていること自体が、生意気だったんだよなぁ。

 実際両親の手を借りている。保育園の先生だってわたしの事情を把握して考慮してくれているし、職場だってそうだ。

 これまでも感謝は忘れていないつもりだったけれど、翔平がそばにいることで余計にそう感じるようになった。

 イルカはトレーナーのお姉さんの声で、もぐったり飛んだり輪投げをしたり、手を振る動作なんかも見せてくれた。悠翔は少々水がかかってもへっちゃらで夢中になって、声をあげたり手をたたいたり普段見せないような満開の笑顔をわたしたちに見せてくれた。

 帰りの車の中は、はしゃいだ悠翔は買ってもらったイルカのぬいぐるみを抱いてチャイルドシートで眠ってしまった。サービスエリアで休憩した後、車に乗り込む。

「前に乗って、俺も眠い」

「え? そんな、わたし免許持ってないから運転代われないよ?」

「隣で話をしてくれていれば大丈夫だから。ほら」
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