冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 それならドライブに付き合おうか。こんなにゆっくりお出かけするのも久しぶりだから、わたしも翔平の誘いを断らなかった。

 コーヒーショップのドライブスルーでコーヒーとカフェラテを買って、近くの高台に車を停めた。市街地が一望できてなかなかの眺めだ。

「こんなに綺麗なところがあるんだね」

「たまたま見つけたんだ。ここなら車を降りなくてもゆっくりできる」

 買ったばかりのコーヒーを飲む。夜になって少し冷えてきたので温かくてホッとする。

「瑠衣」

「ん?」

 ふと顔を向けた翔平の顔が真剣で思わずわたしは姿勢を正した。

「どうかしたの?」

 急に雰囲気が変わってどきまぎしてしまう。しかし翔平はじっとわたしを見つめている。

「俺、家族になりたいって言ったけど、もっと大事なことを言い忘れていた」

「大事なこと?」

 わたしは怪訝に思って聞き返す。家族になるより大事なことってなに?

 怖くなってついとげとげしい声が出てしまう。

「そうだ。家族になる前にもっと大切なことがある」

 わたしは息をのんだ。この先のセリフを聞かずにおきたい。

 しぶしぶわたしと悠翔に関わることを了承したはずなのに、この一カ月で彼のいる生活が徐々に心地よくなってきた。

 こんなときになって自分の気持ちに気が付く。いつもわたしはそうだ。大事なことは失くしそうにならないと気が付かない。

 わたしは手にしていたカフェラテのカップを両手で持ち、じっとそれを見つめた。どんなことを言われても落ち着いて、決して取り乱さないようにしようと覚悟した。

「瑠衣、俺と付き合おう」

「……って、なに?」

 自分の耳が信じられなくて聞き返す。

「おい、ちゃんと聞いとけよ。俺と付き合おう」

「付き合うって、わたしと翔平が?」

「ああ」

「え、どういう意味?」

 事態がのみ込めないわたしに、翔平は呆れ顔だ。

「なんだよ、台無しだな」

 翔平は今度はきちんとわたしの方へ体を向けて、強いまなざしを向けてきた。

「山科瑠衣さん、俺と付き合いませんか?」

 決して聞き間違いじゃない。彼はわたしと付き合おうと言っている。言っている意味はわかるけれど、理解ができない。

 なに、どうして?

「付き合うって、お付き合いをするってことだよね?」

「そう、俺と恋人になろうって言ってるんだ」

 やっぱりそういう意味だよね。わかった、わかったけれど。
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