冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「なんで、今さら?」

 素直な言葉が口から出た。

「わたしたちはすでに悠翔の父親と母親としての役目を果たすために家族になろうとしているよね? それなのになんで恋人?」

 わたしの言葉に翔平は複雑な表情を見せた。

「俺が家族になりたいって言ったのは、役目を果たすためじゃない。瑠衣と悠翔と一緒にいたいからだ。これから先もずっと。でも大事なことをちゃんと伝えてなかった俺が悪いんだが」

 翔平はそこでうつむいていたわたしの頬に手を添えて、自分の方へ向けた。一瞬も逸らすことを許さないというような、彼の視線にとらわれる。

「瑠衣、好きだ。だから俺のものになって」

「俺のものって……わたし母親だよ。それなのに恋なんておかしいよ」

 今までずっとそう思ってきた。そもそも出産してから今まで恋をしようなんて気持ちにならなかった。わたしには悠翔という愛情をそそぐ対象があるから、それで十分だった。

「母親だからって人を好きになっちゃダメなのか? それに俺は悠翔の父親だ。両親が愛し合ってなにが悪い。世間体とか瑠衣は気にするかもしれないけど、周りなんて関係ない。俺たちは俺たちの幸せを三人で作るんだ。俺はもう三年前のように間違えたくない。お前を離したくないよ」

 翔平の思いに胸が焦げるように熱い。返事をしなくちゃいけないと思うけれど、いろんな感情があふれて言葉が出ない。締め付けられる胸、口にできない言葉。それらの代わりにわたしは涙を流した。

「……っ……う」

 慌ててうつむこうとするけれど、それさえ翔平は許してくれない。わたしはもう諦めて彼の前に泣き顔をさらして涙を流す。

「それはNOの涙じゃないよな。最近の瑠衣は昔に比べてわかりやすくなった」

「……それって、いいこと?」

 涙でぐちゃぐちゃの顔で聞く。

「当たり前だろう。三年前はお互い意地を張ってすれ違った。この三年間瑠衣のことに関しては後悔しかない。だから、ちゃんと取り戻したいんだ。順番なんか関係ない。これから先俺の幸せは瑠衣と悠翔とともにある」

 わたしと悠翔とともに?

「翔平、わたしたち新しくはじめられるかな?」

「ああ、少なくとも俺はそのつもりだ」

 不安がないわけじゃない。だけどこんな風に彼の気持ちを聞いてしまったからには、わたしは拒否することができない。

「少しずつだけど……よろしくお願いします」

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