冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 わたしの返事に翔平は笑顔を浮かべた。そしてわたしの頬に添えられている手で涙を拭ってくれる。

 ゆっくりと彼が近付いてきた。わたしはそれに合わせておもむろに目を閉じる。

 翔平との三年ぶりのキスは、幸せの涙の味がした。



「しょーへーどこ?」

 ここ最近悠翔が覚えた言葉は『しょーへー』だ。わたしが彼のことを〝翔平〟と呼ぶので自然とそう呼ぶようになった。わたしも彼もそれを無理に変えさせるつもりはなくそのままにしている。

「今日はお仕事だって。ママとふたりご飯だよ」

「ごはん! ます」

 しまった。実はまだ準備ができていないのに。わたしはお腹のすいた悠翔に煽られるようにして、朝出勤前に準備していたカレーを温め、一緒に作っておいたポテトサラダをテーブルに並べて、一緒にいただきますをした。

 そこからはすでに眠そうな悠翔をなんとかお風呂に入れて、ベッドに運ぶとあっという間に眠りについた。

 寝つきがよくて助かる。きっと今日も保育園でいっぱい遊んだんだろうな。

 食事や部屋の片付けをして、翌日の準備にかかる。保育園の連絡帳に夕飯や就寝時間を記入して、もらったお便りを確認し冷蔵庫の隣にあるコルクボードに張りつけた。

「運動会のお知らせね。忘れないようにしなきゃ」

 保育園では年に数回、参観日がある。働いている親のために土曜日に設定されているので、毎回悠翔がどんな風に保育園で過ごしているのか見るのを楽しみにしていた。秋なのでミニ運動会を今年もしてくれるようだ。

 手帳に日程を書き込んでいると、スマートフォンにメッセージが届く。

【あけて】

 たったこれだけ、わたしが急いで玄関の鍵を開けるとそこには翔平が立っていた。

「どうしたの? チャイム鳴らせばいいのに」

「悠翔が寝てるだろ」

 確かにそうだ。彼は部屋の中に入ると、真っ先に悠翔の眠っている寝室に向かった。そして寝顔を見て頭をひと撫でした後、リビングに戻ってくる。

「悠翔に会いに来たの?」

「それだけじゃない。瑠衣の顔も見たかった」

 翔平は近付いてきたかと思うと、わたしの唇にチュッと小さなキスをする。

 驚くわたしの顔を見て、してやったりの表情の翔平。

 思わず笑ってしまったわたしの負けだ。

「コーヒーでも飲んでいく?」

「いや、明日早いから」

「え? 本当に会いに来ただけ?」
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