冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「そんなこと子供じゃないんだから言われなくたって大丈夫よ」

 口ではそう言うけれど、こんな風に誰かに心配されるっていいなって思う。肩肘張らずに誰かに大切にされることをふと思い出した夜だった。



「ねえ、本当に保育園に行くの?」

「当たり前だろ、息子の通う園を見ておきたいというのは親として普通の感覚だ」

 前を歩く翔平との距離がどんどんあいていく。どうにか保育園に着くまでに彼の気持ちを変えさせようと、時間稼ぎをしていた。

 約束の金曜日。実家に挨拶に行く前に悠翔を保育園にお迎えに行くことにした。だがなんとなくそれを翔平に話をしてしまったせいで、今のような状況になってしまっている。

「おい、早くしろよ。約束の時間に遅れる」

「それはそうだけど」

「ご両親に挨拶するんだから、保育園に顔出しても問題ないだろ。俺が父親だってわかったら、悠翔を迎えに行くことだってできる。お前が仕事で遅くなってもさみしい思いをさせずに済む」

「ねえ、お父さんとお母さんに会うのとはわけが違うの。わからない?」

「なにが?」

 保育園の関係は色々とややこしいのだ。噂は光の速さで広がる。数名のママさんの顔が浮かんで気が滅入る。

「だから、色々あるの! これ以上言うなら、今日は実家には連れていかないからね」

 かたくなに拒否するわたしを彼は睨んだけれど最後は折れた。

「今日の目的まで達成できなかったら困るからな、とりあえず保育園の中には入らない」

 やっと折れてくれてホッとした。

「とりあえず、ここで待っていて」

 保育園に入るにはICカードをかざして解錠しなくてはならない、翔平には門の前で待ってもらうことにした。彼はそこに立って、園庭の様子を眺めている。そのたたずまいが……目立ってしまう。

 両親に挨拶をするということで今日はスーツ姿なのだが、それがいつにもましてカッコいい。もともと身長も高く目を引く美男子。そんな人がびしっとしたスーツを着て保育園の門の前に立っているのだ。注目の的になるのは必至。

 早く悠翔を連れて帰ろう。

 着替えや荷物を持って先生から今日の様子を少し聞いて、すぐに下駄箱に向かう。するとそこにはいつもの噂好きのママさんメンバーが立っていて、今日だけは顔を合わせたくなかったと心から思う。
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