冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 両親には悠翔の父親が誰なのか事前に話をしておいたが、母もやっと現れた悠翔の父親と対面することになって緊張していたに違いない。

「遅れても来るって言ってたから」

 翔平の勤める帝都病院はここからはそう遠くないし、専門外治療にあたることはない。だからそう時間がかかるとは思えない。そもそも時間がかかるならば、日を改めると言っただろう。

 あ……電話だ。

 バッグの中のスマートフォンを取り出すと、翔平からだった。

《悪い。今タクシーに乗った。あと二十分くらいで着くから》

 焦った様子の翔平。確かに相手の親に会うのに遅刻は気まずいだろう。

「事情は話したから急がなくていいよ。待ってるね」

 電話を切って時計を見る。ちょうど一時間遅れくらいで済んでよかった。ごはんも無駄にならない。母に翔平の到着時間を伝えて、わたしは料理を作るのを手伝った。

 予定時刻を五分ほど過ぎた頃、玄関のチャイムが鳴った。その音に家族全員の動きが一瞬止まる。両親もわたしも少し緊張した面持ちで玄関に向かい扉を開けた。

「遅れて申し訳ありませんでした」

 扉が開くやいなや、翔平は中に向かって頭を下げる。その勢いに父も母も顔を見合わせていた。次の瞬間顔を上げた翔平を見て、わたしはぎょっとした。

「ねぇ、どうしたの? その汗」

 翔平の額からは汗が流れていて、今気が付いたが呼吸も荒い。

「実はあと少しというところで、渋滞に巻き込まれて。二度の遅刻は許されないと思って走ったんだ」

「嘘、連絡してくれればよかったのに」

 ただでさえ今日は色々とあったのに。

「あらあら、大変だったわね。中へどうぞ」

 玄関で立ったまま話をしているわたしと翔平を、母がリビングに案内する。するとそれまでリビングでテレビを見ていた悠翔が、翔平の顔を見て走り寄ってきた。

「しょーへー!」

 翔平は悠翔を抱き上げる。そのまま客間に入った。

「悠翔。お前の友達まだ検査中だけど、意識が戻ったから。よかったな」

 どうやらダイちゃんは大丈夫だったみたいだ。詳しく話を聞きたいけれど、それは後にしよう。

 父の前に座った翔平は、悠翔を隣に座らせた。そして父と母の顔を見て座布団の上から下りて畳に額が着くほど頭を下げた。

「ご挨拶が遅れまして、申し訳ございませんでした」

 そのままじっとしている翔平を見て、父が頭を上げるように伝える。
< 63 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop