冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「君島翔平くんだね。瑠璃から何度か名前を聞いたことがある。まさか君が悠翔の父親だったとは、驚いた」

 あろうことか自分が知っている人物だと、父も母も思っていなかったのだろう。実際に目の前に現れて実感がわいたのかもしれない。

「私の不徳のいたすところで、瑠衣さんやご両親にはご心配をおかけしました。改めてお詫びします」

 もう一度深く頭を下げた翔平の膝に、隣に座っていた悠翔がちょこんと座った。そして翔平の顔を覗き込む。周囲の雰囲気がいつもと違うので、なにかしら感じ取ったようだ。

 彼の膝の上で、父と母の顔をじっと見つめている。

 その様子を見た父が、小さく息を吐いて笑った。

「君島くん。悠翔のことは――たとえ瑠衣が君になにも知らせずに産んだとわかっていても、父親が現れたときには、一発殴ってやろうと思ってたんだ」

「お父さん!?」

 普段家族の中で、女性の意見に押され気味でいつも穏やかな父がまさかこんなことを言うとは思ってもみなかった。

 わたしはおろか母もこんな父を見たことがないのか、驚いた顔をしている。

 しかし翔平はしっかりと父の方を見て、ひと言も聞き漏らすまいと話を聞いている。

「だけど……悠翔がこの短期間の間に君にそれほどなついているってことは、相当努力したんだと思う。やっぱり親子なんだな。それに……悠翔とそっくりなその顔を殴るなんて私には到底できそうにないよ」

 どこか諦め交じりの笑みを浮かべた父。しかし翔平は真剣な顔で父を見ていた。

「そんな風に言っていただけるとは思わなかったので、感謝します。お義父さんとお義母さんに謝罪するような行いはこれで最後にするつもりです。これから先は、ふたりの幸せを一番に考えます。きちんと行動で示します。ただ至らない点も多いので、これまで通りお力添えいただきたいと思います」

 いつも自信にあふれている翔平。だけど今日は少し違った。昔はなにもできないことがないっていう態度だったのに、今は自分の至らない点をきちんと認めている。

 翔平もこの三年で変わったんだな……。

「もちろん、わたしたちにできることはなんでもするわ。ね、お父さん」

「ああ」

 母の言葉に父も頷く。

「で、ほら、あれ……その……」

 それまではっきりしゃべっていた父が急に口ごもる。なにか言いづらいことを言うつもりだ。

「籍はいつ入れるつもりなの?」
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