冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 父の代わりに母が言った言葉に、翔平が一瞬固まった。

「それは……まだなにも決まっていません」

「え? どういうこと……あっ、瑠衣ね?」

 急に母に睨まれたわたしは、慌てる。

「あの、前向きに検討はするつもりだよ。でもこの先のことはどうなるかわからないし――」

「どうなるかわからないって、なに言ってるのよ!」

 母は翔平の前だというのに、いつものペースでわたしにお説教をはじめる勢いだ。

「母さん、ちょっと落ち着きなさい」

 父にたしなめられた母が不服そうに前のめりになっていた体をもとに戻した。

 父は翔平とわたしを交互に見る。

「翔平くんすまないね。瑠衣は昔から頑固なところがあって、自分で納得しないと決して首を縦に振らない。そういう一本気で不器用なところも親としてはかわいいんだが。付き合わされる君は迷惑かもしれない。お互いが納得できるように話し合いなさい。それができなければ夫婦は続かない」

 父が言う言葉の重み。それをわたしも翔平も感じていた。

 それからは母の用意してくれた食事を一緒に食べた。お酒を酌み交わすうちに、翔平と父はうちとけて男同士の話をしている。悠翔は父の膝の上で眠ってしまった。

 わたしはキッチンで母の片付けを手伝っていた。

「あらこれ、テレビで見たことあるわ。君島さんわざわざ買いに行ったのかしら?」

 老舗の和菓子屋のどら焼き。父の好きなものを聞かれて和菓子だと教えたから、買ってきたのだろう。忙しくてもわたしの家族のために時間をとってくれたことがうれしくて、お皿を拭きながら思わず顔をほころばせる。

「素敵な人ね。よかったわ、あなたのこともよく理解してくれているみたいで」

「うん。自分がめんどくさい女だって理解はしてる。でも後悔したくないから」

「頑固ね、ほんとに。あんなイケメンでしかもお医者様なんて、お母さんなら一も二もなく結婚しちゃうけどな」

「もう、お母さんったら。……でもごめんね。まだ安心させてあげられなくて」

 母としては籍を入れて、悠翔のために両親がそろうことを望んでいるだろう。

「いいのよ。あなたは昔から自分で全部決める子だった。それはお母さんたちのせいでもあるわね」

「え? どうして」

 なぜそんな風に考えたのかわからずに聞く。
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