冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「お姉ちゃんが大きい事故に遭ったでしょ。あのときあなた思春期の大事な時期だったのに、ずっとほったらかしだったから。全部自分のことは自分で決めて。できるだけ家族に迷惑かけないように、自分の気持ちよりも失敗しない確実な道を選ぶ癖がついてしまったのね」

 あれは姉が高校一年、わたしが中学一年のときの話だ。中学のインターハイの短距離で優勝した姉は、将来を嘱望される陸上選手だった。しかし不慮の事故で二度と選手としては活躍できなくなってしまった。明るいはずだった姉の人生。絶望する姉を家族で支えた。

「あれは、仕方ないじゃない。家族のピンチだもの」

「でも、あなただってわたしの大事な子供なのよ。それなのに目が行き届かなかった。だからね、瑠衣」

 母は手を止めわたしを見た。

「わたしとお父さんのように外から見たらなにもないように見えても、失敗や後悔はつきものなの。大切なのは形じゃなくて、どうあるべきか、どう幸せに過ごすことができるかなの。だからわたしもあなたたちが決めた道なら応援する。ふたりで決めなさい」

「お母さん……」

 今まで知らなかった母の気持ちを知って、胸が締め付けられる。目に涙が浮かんできて見られたくなくて目頭を押さえた。

 いろんな思いを抱えて、わたしを育ててくれたんだ。

「ありがとう」

 涙が我慢できなかったわたしを、母がギュッと抱きしめてくれる。ほんの数分子供に戻ったわたしは母の胸の温かさに感謝した。

「さあ、もうそろそろ君島さん助けてあげないと、お父さんにつぶされちゃうわよ」

 穏やかな父だがお酒にはとても強いのだ。

 リビングに行くと、お酒に強い翔平の顔が赤くなっていた。とっておきのウイスキーをふたりで飲んだらしい。

「翔平、そろそろ帰ろう」

「あぁ……じゃあ、悠翔を――っと」

 立ち上がろうとした彼がふらつく。これは相当飲まされたに違いない。

「悠翔はすっかり寝てるから、今日はこっちに泊めれば?」

 リビングのソファですっかり眠ってしまっている。時々実家に泊まることもあるし、悠翔の着替えや食器もある。

「じゃあ、そうさせてもらう。わたしのお布団も準備しなきゃ」

「いいえ、あなたはこの機会に少し君島さんとお話しなさい。悠翔のことはわたしとお父さんに任せて」

「え?」
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