冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 彼氏との泊まりを親に隠すなんて話はよくあるが、親に勧められる人ってそうそういるとは思えない。

 ちらっと翔平の方を見る。赤い顔こそしているが、意識はちゃんとしている。

「せっかくなので、お言葉に甘えていいですか?」

 翔平の言葉に、母は快く引き受けてくれた。

「そうしなさい。わたしたちも悠翔が独占できるから。ね、お父さん」

「ああ」

 父の方は酔っていて状況の判断があまりできていないように思う。きっと素面ならわたしに外泊を勧めたりしない。

 確かに悠翔がそばにいるときは、悠翔中心で動いている。ゆっくりと過ごす時間がなかったのは事実。

 それに母はわかっているのだ。今わたしたちに必要なのは、一緒にいる時間だと。

「じゃあ、悠翔のことお願いね」

「任せなさい。さあ、タクシー来たわよ」

 先ほど呼んだタクシーのエンジン音が微かに外から聞こえる。

 父は酔いが回っているので悠翔と一緒に寝かせて、母に見送られタクシーに乗る。

 バタンと扉が閉じられた瞬間に聞かれた。

「俺の部屋でいいよな?」

 わたしはおとなしく頷いた。



「翔平の部屋に入るのってはじめてかも。ねえ、わたしが急に行っても大丈夫なの? もし心配なら少し外で待ってるけど」

 早口であれこれ言っていると彼がぷっと噴き出した。

「お前、変わってないな。緊張すると早口になって口数が増えるの」

「え、そう? 別に緊張なんてしてないんだけどなぁ」

 そう言ってみたけれど、いきなりのことだったので本当は少し緊張している。

 隣に座る翔平はずっと窓の外を見ていたけれど、そっとわたしの手を握る。酔っているせいかいつもよりも彼の体温が高い気がする。触れているのは手だけなのに、なんだか胸がドキドキする。

 なんだろう。どうしてこんなことで、ときめいてしまうんだろう。人に触れられる喜びを感じるのは、相手がきっと翔平だからに違いない。

 条件のいい相手を探して、たくさんの人に会ってきた。この人こそはと思いお付き合いをはじめてもうまくいかなかった。それでもきっと自分にぴったりの相手が現れると思っていた。
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