冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「俺と入れ替わりにアメリカに戻ったやつが使ってたのをそのまま買い上げたんだ。前の住人は家族で住んでいたから、俺ひとりだと確かに広すぎるな」

 そういう問題じゃないと思う。家族で住んでもこの立地にこの広さ、おまけにコンシェルジュまでとなると、いかほどの金額になるというのだ。

 姉曰くやはりアメリカでの活躍は日本でもものを言うらしい。そこでちゃんとした実績を収めていれば、おのずと日本国内での評価も高くなると言っていた。

 こういう話を聞いたり、マンションを見たりすると急に翔平を遠くに感じてしまう。

 目の前だけの彼を見ることができたらなぁ。

 やっぱり昔の癖で、その人のバックグラウンドや職業条件的なものを気にしてしまう。自分がシングルマザーとひとくくりにされるのを嫌っているのに、勝手だなと思う。

 ネクタイを緩めながらソファに座った翔平はじっと目を閉じている。タクシーから降りた後は足取りはしっかりしていたけれど、やっぱり相当酔っているみたいだ。

「なあ、悪い。水とってくれる?」

「冷蔵庫?」

「ああ」

 言われるままに冷蔵庫の中から、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。棚にあるコップに水をそそいで、彼のもとに持っていく。

「ありがとう……でも足りない」

 受け取った翔平は一気に飲み干した。空のコップを差し出してくるのでおかわりの催促だと思いグラスに手を伸ばす。

 するとそれと同時に手首をぐいっと掴まれた。そのままわたしはソファに座る翔平に抱きしめられた。

「ちょっと、翔平? 酔ってるよね?」

「酔ってない。もう覚めた。それより……足りないんだ」

「だから水持ってくるから、離してくれない?」

 翔平はしっかりとわたしの背中に手を回して、力を込めている。これでは水を取りに行こうにも立ち上がれない。

「必要ない――足りないのは、瑠衣。お前だよ」

 ハッとして体を起こそうとした。でもその次の瞬間。わたしの唇は翔平にとらえられていた。
驚いて反射的に顔を逸らそうとした。しかし翔平はわたしの頭に手を添えてしっかりと固定し離さない。呼吸をしようと唇を薄く開くと、そこから彼の舌が入ってくる。そしてあっという間にわたしの舌を絡めとると、よりキスを深めた。

「ふっ……んっ」
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