冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 鼻に抜ける甘い声。意図せず出る声に羞恥心が煽られる。けれど拒否することなんてできない。それくらい彼とのキスは心地よく、頭の中にあるあれこれをすべておしやって彼のことしか考えられなくなる。わたしの中のスイッチを押すのだ。そしてひとたびそのスイッチが押されると、自分で制御できなくなる。

「なあ、瑠衣。俺すっげー我慢してる。昔の俺なら考えられないくらい。だから今日は、瑠衣がむちゃくちゃ欲しいんだ」

 キスの合間にそう囁く。そのわずかの会話さえも、彼は時間が惜しいかのようにわたしへのキスをやめない。熱い吐息、欲望をにじませる瞳。熱のこもった手のひら。体中の全部で彼がわたしを欲している。

 わたしは彼の頬から耳のあたりに手を添えてゆっくりと撫でる。翔平とお別れしてから、こんな風に誰かに求められることなんてなかった。見かけだって彼が知っている三年前に比べたら、劣っているに違いない。それなのに……彼は今、目の前にいるわたしを欲しいと言ってくれている。

 ときめくと同時に苦しくなる。胸が痛くてでもうれしくて、言葉にできない身を焦がすような感情があふれ出してくる。

「翔平」

 わたしが名前を呼ぶと彼はキスをやめて、わたしを至近距離で見つめた。

「わたしをもう一度翔平のものにして……きゃっ」

 言い終わるか終わらないか、わたしはすでに翔平に抱き上げられていた。驚いてしっかりと彼の首に手を回す。

「瑠衣がそう言うなら喜んで。でも覚悟しておけ、三年分だからな」

 三年分……その言葉から、彼の気持ちは三年間継続してずっとわたしに向いていたという風にとれた。それはきっとわたしも同じ気持ち。

 彼の寝室のベッドに優しく置かれた。なじみのある香りにわずかに興奮を覚えた。ふたり分の体重を受け止めたベッドがきしむ。

 翔平のことを忘れようとしたこともあった。だけどずっと胸にいた。だから忘れることを諦めた。

 だから今こんな風に彼に抱かれていることが信じられない。

 この気持ちはどうやっても彼に伝えることはできない。

 だから代わりにわたしは自ら彼に口づけた。彼の背中に手を回し、その広さに気持ちが高ぶる。
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