冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 唇を触れたままで囁かれる。わたしは魔法にかかったかのように素直に彼の言うことを聞いてしまう。

 それまで彼の胸に置いていた手を首に回す。頭を傾けてわたしからより深くキスをする。ぴったりと重なっていた唇。わたしから舌を差し出すと、気のせいかもしれないが彼がわたしを抱きしめる力が強くなった気がする。

 お互い抱きしめ合って、求め合う。キスが濃厚になっていくうち……結局わたしは体をほとんど洗えないまま、翔平にベッドへと連れ戻されたのだった。


 ゴロンと寝返りを打ってから『うちベッドこんなに広かったっけ?』と思い目を開けた。そこで見慣れない壁紙が目に入り、ここが翔平の部屋の寝室だということを思い出す。

 わたし疲れ切って眠っちゃったんだ。ぼーっとしながら昨日の夜の出来事が頭に浮かんできて恥ずかしさに耐えきれなくなって誰がいるわけでもないのにシーツの中に隠れた。

 昨日わたし……あんな……。

 思い出すだけで顔が赤くなっていくのがわかる。まさかあんな何度も……最後の方なんてほとんど記憶がないし。

 そこまでひとり心の中でキャーキャー言いながら反省会をして、翔平がすでに寝室にいないことに今さらながら気が付いた。

 ベッドから降りてバスローブを羽織る。壁にある時計を見ると間もなく十一時になるところ。

「え、嘘。わたしどれだけ寝てたの!?」

 普段休みの日でも悠翔がいるので、遅くても八時には起きるようにしている。こんなに遅くまで寝たのは久しぶりだ。

 悠翔、迎えに行かなくちゃ。

「翔平、わたし悠翔を――」

「ママ!」

 リビングに足を踏み入れた途端、悠翔がわたしに抱きついてきた。

「悠翔!」

 抱き上げたわたしは、翔平の姿を探す。

 すると彼はキッチンから顔を覗かせた。

「よく眠れたか?」

「うん、それはもちろん。もしかして翔平、悠翔を迎えに行ってくれたの?」

「ああ、瑠衣が起きたら会いたくなるんじゃないかと思って」

 確かにその通りだ。やっぱり子供の顔を見ないと落ち着かない。

「ありがとう。うれしい」

 腕の中にいる悠翔のぷにぷにのほっぺにチュとキスをすると、キャッキャと喜んだ。

 テレビには悠翔が好きなどんぶり三銃士のアニメが流れている。どうやらわたしが起きてくるまで夢中で見ていたようだ。

 悠翔を抱いたまま翔平のいるキッチンに向かう。バケットが卵液に浸けられている。
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