冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「フレンチトースト?」

「ああ。俺のはうまいぞ。ふたりで食べに行ったときのフレンチトーストと遜色ないはずだ」
 確かそんなこともあったな……。

 そう言いながらフライパンにバターを溶かす。ジュワっという音とともにバターのよい香りが漂う。

「この間も思ったけど、料理得意なんだね」

 彼が作ったオムライス、わたしのよりも美味しかった。

「なんでも作れるわけじゃない。できるものは限られてる」

「作り方教えてよ」

 バタバタと暴れはじめた悠翔を床に下ろすと、テレビの方へ向かっていく。どうやら大好きな歌が流れたのでそちらに気を取られたみたいだ。

「教えてやってもいいけど……やっぱダメ」

「どうして? なにか秘伝のコツでもあるの?」

 ダメと言われたら余計に知りたくなってしまう。

「別に作り方も材料も普通」

「だったら、教えてくれてもいいじゃない」

「教えない。そのかわりフレンチトーストは一生俺が作って食べさせるから」

 器用にフライパンの上でパンをひっくり返しながらそう言った。

「俺がいつでも作ってやるから、瑠衣は作り方知らなくていい。実はずっと食べさせたかったんだよな。だから今日の俺は念願叶ってご満悦だ」

 ずっとっていつからなの? 聞きたかったけれどやめておいた。離れていた間も、彼の中でわたしという存在が消えていなかったと言われているようで、照れ臭くてうれしい。

「楽しみにしてる。あ、わたしコーヒー淹れるね」

 なにか手伝って照れ隠ししなくちゃ、恥ずかしい。

 きょろきょろとキッチンを見渡すと、カウンターの上にコーヒーサーバーと瓶に入ったコーヒーの粉があったのでそっちに目を向ける。

「瑠衣、コーヒーもいいけど。シャワー浴びてきたら? 目のやり場に困る」

「えっ、あ、ごめん」

 慌ててガウンの前を合わせなおす。

「眼福だけど、悠翔がいるからなぁ」

 翔平がわたしに一歩近付いてチュと目じりにキスを落とした。

「もう。悠翔がいるのに」

 さっき自分がそう言ったのに、もう忘れてしまったのだろうか。

「別に俺たちの仲がいいことは、あいつにとっても幸せなことだろ」

 当たり前のように言われて、おかしくなって笑ってしまった。

 とはいえ、いつまでもガウンのままでいるわけにはいかない。

 目覚めて悠翔がいて、美味しい料理を作ってくれていて、うれしいことが重なりすぎてうっかりしていた。

ひとり寝起きのままだったわたしは、急いでシャワーを浴びて簡単に身支度を整えた。

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