冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「パンー!」

 リビングのテーブルでは、エプロンをつけた悠翔がテーブルをバンバンたたきながら叫んでいた。

「わかったから、ちょっと待てって」

 慌てた様子の翔平がバタバタとお皿を持ってリビングに向かっている。

「ます! ます!」

 まだお皿が到着していないのに、悠翔はいただきますをしていて、それを見て焦った翔平はローテーブルにできあがったフレンチトーストをのせたお皿を急いで置いた。

「わー、おいしいね」

「まだ食べてないだろ。そういうときは美味しそうって……おい」

 翔平がしゃべっているにもかかわらず、悠翔はすでにフォークでフレンチトーストを食べはじめていた。

「なんだよもう。うまいか」

 彼の問いかけに返事もせずに、悠翔は夢中になって食べ続けている。

 クスクス笑うわたしを見て翔平がため息をついた。

「なかなか大変でしょ? ごはん食べさせるの」

「ああ、まさかこんなばたつくとは思ってなかった」

「悠翔は食べむらあるけど、それでもなんでも食べるからありがたいの」

 そう言って食べている彼を覗き込んだら「どーじょ」とわたしにひと切れくれた。

「ありがとう」

 もぐもぐ食べると「おいしいね」とにっこり笑う。

「なんだよ、その顔。反則だろ」

 悠翔の顔を見た翔平は、額を押さえて悶えている。

 子供のかわいさに耐えきれなくなったみたいだ。こんな表情を見せるだなんて新鮮でわたしは彼に釘付けになる。

「あ~ほら、こぼしてる。おい、袖についてる。あぁ~」

 割と細かい翔平に驚くけれど、なかなかいい父親をしているように思う。

「なぁ、瑠衣。この後買い物行こう。悠翔のダイニングチェアが必要だろ。それにここには食器も大人用のしかないし」

「でももったいなくない?」

「いや、ここだって悠翔の家だろ。そうだお前用のスリッパとか着替えとかも買おう」

「いや、わたしのはいいよ」

 目の前で手を振って遠慮する。別に困っていることなんてないし。

「ここだって瑠衣と悠翔の家みたいなもんなんだから。後で鍵も渡すし、とりあえず俺たちも食べるぞ」

「え、でも……」

「聞こえなーい」

 追いかけて反論しようとするわたしの話をまったく聞いてくれない。

「いいから、ほら悠翔の隣に座って」

「え、あ。うん。いや、だからね」
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