冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 話を聞かない彼に必死になって食い下がる。

「ほーら、悠翔デザートだぞ」

「ちょーだい。ちょーだい」

 色とりどりのフルーツがのったお皿に、悠翔が歓喜の声をあげる。

「ねぇ、聞いて……んぐ」

 わたしが開いた口の中に、翔平がパイナップルを放り込む。

「黙って食べて。それ以上しゃべるとキスするからな」

「なに言って……わかったわよ」

 最終的には負けてしまったわたしを見て、翔平は機嫌よさそうにコーヒーを飲んでいた。

「これからはここにいる時間だって長くなるんだ。少しでも快適に過ごせるようにしないとな。あ、反論は認めない」

 素直に頷けないわたしに、それ以上なにも言わせないつもりのようだ。

「いいのかな……本当に?」

「俺がいいって言ってるんだ。当たり前だろ。な、悠翔」

「うん」

 わたしたちの会話の意味を理解していないであろう悠翔を味方につけるなんてひどい。

「ほら、早く食べろって。俺の自信作なんだから」

 今度はフレンチトーストを口の中に放り込まれた。

「ん! 美味しい」

 表面はカリカリで中はふっくら。メイプルシロップの甘味が休日のブランチにぴったりだ。

「だろ?」

 わたしの賞賛の言葉に気をよくした翔平は自分の分のフレンチトーストまでわたしの皿にのせた。

「こんなに食べられない」

「いいから、ほら。これも」

 フルーツのお皿からキウイやパイナップルを取ってくれる。

「早く食べないと悠翔に全部食べられるぞ」

 さすがにその量を二歳児が食べるとは思えないけれど……わたしは翔平の言葉に甘えてたくさん食べた。

 三年前、はじめての朝に食べたフレンチトーストとは違って、翔平が作ってくれたのはものすごく深い味わいがしたのは気のせいだろうか。

 片付けはわたしがすると言ったのに、結局翔平とふたりでした。リビングでは悠翔が新聞紙をびりびりにやぶいて遊んでいる。

「ごめんね、散らかしちゃって」

「謝ることじゃない。喜んでるじゃないか」

 普段すぐにダメだよと言ってしまっている自分が恥ずかしくなる。

「いつもこんな風に余裕があればいいんだけどな」

 もっとこうしてあげたい、ああしてあげたいって気持ちはあるけれど、できていないのが現実だ。

「それは仕方ないだろ。今日は休みだし俺もいる。だから頼ればいいし楽すればいい。普段頑張りすぎなんだ」
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