冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 言うなら今かなぁ。わたしは頃合いを見計らって、今日姉にどうしても話しておきたかったことを切り出す。

「お姉ちゃん、悠翔の父親のことわかってたよね」

 わたしの言葉に姉の手が一瞬止まる。

「それは……ね。あれだけ似てたら、いくら鈍いわたしでも気が付くでしょ」

 苦笑いを浮かべて、手元の野菜を切っている。

「今まで黙っていてごめんなさい」

 わたしが謝ると、姉は包丁を置いてわたしの方へ向いた。

「ほんとに、どうしてもっと早く言ってくれなかったの!」

「だから、ごめ――」

「って、責めたくもなるけど。でも瑠衣と君島先生ふたりを知ってるわたしからしたら、きっとなにか理由があったんだと思うから、口出しはしなかったの」

「お姉ちゃん……」

 優しい姉がわたしの未婚での出産を人一倍心配していた。最後まで『わたしにだけは相手を教えてほしい』と言われ、当時ものすごく悩んだ。

 しかしそれでもわたしは教えなかった。秘密を知ってしまったことで姉を悩ませることになると思ったからだ。

 結局今日まで真実を話さなかったけれど、それでも姉はいつも近くで寄り添ってくれていた。

「ごめんね、あのときはああするのが一番いいと思っていたから」

 わたしは完全に手を止めて、姉の様子をうかがう。

「わかってるよ。瑠衣がなにも考えずにそういうことをする子じゃないってことは。そんな瑠衣が決めたことだから、わたしも自分を納得させたの。そのときはね」

「お姉ちゃん?」

 今度は姉が申し訳なさそうにわたしの顔を見てきた。

 どうしてお姉ちゃんがそんな顔するの?

 疑問に思っていると、姉が勢いよく頭を下げた。

「ごめんなさい。君島先生に悠翔の話をしたのはわざとなの」

「え、どうして?」

 責めるつもりはないけれど、これまで黙っていた姉がどうしてそういう気持ちになったのか知りたかったのだ。

「実は、君島先生から帰国の報告の連絡があったの。そのときに一番に聞いたのは瑠衣、あなたのことだったの」

 秘密をばらした手前、姉は申し訳なさそうにわたしの表情をうかがっている。しかし口を開いたままでなにも言葉を発することができないわたしに、当時の話を聞かせてくれた。
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