冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 わたしがギュッと彼を抱きしめると彼は同じくらいの力で、いやそれ以上の力を込めてわたしを抱きしめてくれた。

「なあ、俺たち。こうやって支え合っていこう。困難乗り越えてうれしいこと分かち合って、寄り添っていこう」

 彼が泣いているわたしの背中を撫でながら、優しく言ってくれた。

 より深い愛を感じたわたしは、自分から彼におねだりする。

「ねえ、キスしてもいい?」

 語彙力がなさすぎて気持ちを伝えきれない。どんな言葉を使ったって、今のこの翔平に対する気持ちを伝えることができない。

「好き」

 呟いて小さなキスをする。

「俺も」

 彼も同じようなキスを返して抱きしめてくれた。

 まるで中学生みたいなキス、ふたりで笑い合って何度もした。

 考えなくちゃならないことはたくさんある。それでも今は翔平がくれる幸せに浸っていよう。ゆっくりと……悠翔を交えた三人の形を作っていければいい。

 最高に幸せな夜だった。ずっとこんな日が続くとそう思っていた。



 翌朝わたしは「ママ」とわたしを呼ぶ悠翔の声で目覚めた。頬に触れてみると熱はすっかり下がったようだ。

 隣に寝ていた翔平も目が覚めたようで、三人で布団にくるまっているとどんどん悠翔のテンションが上がって、キャッキャと声をあげて笑った。元気になったのはうれしいけれど、また熱がぶり返してもいけない。

「ちょっとまだおとなしくしてて。翔平キッチン借りるね」

 わたしはふたりを置いてベッドを抜け出して、朝食の準備に取りかかった。この間来たときにひと通り使い方は教わった。食材も昨日のうちにコンシェルジュに頼んで、冷蔵庫に入れておいてくれたようだ。

 とはいえ、作れる料理のレパートリーは少ないんだけど。

「えーっと卵と、あ、ホウレンソウがある。これで卵焼きにして。あとは悠翔にはおにぎりかなぁ。おかゆは食べてくれないしなぁ」

 平日の朝は忙しくてパンのことも多い。それに病み上がりだからやっぱり和食の方がいいだろう。

 昨日の夜もちゃんと食べていないはずだ。急いで作ってまだ寝室で遊んでいるふたりに声をかけに行った。

「翔平、ゆう――」

「パパ、パーパ! ほら言ってみろ」

 中から聞こえてきた声に、わたしは扉にかけた手を止めた。

「悠翔、パパだぞ。パパ」

「ダメ、しょーへー」

「だから、違う。パパの方が簡単だろ。ほら、パパ!」

「しょーへー」
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