冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 西尾さんはヒールの音を響かせながら、店を出ていく。

 言われっぱなしで言い返すことができない。わたしの頭の中には西尾さんではなく翔平に対するどうしてだけがいっぱいだった。

――どうして、ねえ。どうして……。

 お互い困難を支え合っていこうって言ったのに、彼はわたしにはなにも言ってくれなかった。それだけ頼りないってこと? なにも信用されていないってこと?

 わたしは落胆と怒りで後先考えずに、翔平の住むマンションに向かった。

 いつもは色々考えて考えすぎるぐらいなのに、こういうときだけは無駄に行動力があるのが不思議だ。

 わたしはイライラしながら翔平の帰りを、エントランスのソファに座って待った。どれくらい時間がたったのだろうか、自動ドアが開きエレベーターに向かって歩く翔平の姿が目に入る。

「翔平!」

「瑠衣? どうしたんだ、悠翔は?」

 連絡もなにもなくいきなり現れたわたしに、翔平は驚いてこちらに駆けてきた。

「悠翔は、お母さんに預かってもらってる。それより話があるの」

「わかった。とにかく部屋に」

「ううん。ここでいい」

 彼がわたしの手を取ろうとしたのを、振り払う。わたしの様子がおかしいことに翔平も気が付いたようだ。

「いったいなにをそんなにかりかりしてるんだ?」

 理由がわからずにイラつくわたしに、翔平もむっとしている。しかしここはマンションのエントランスだ。立ったままでは目立ちすぎる。翔平はわたしをソファに座らせると、落ち着くように言った。

「話は聞くから。とりあえずどういうことか説明して」

 わたしは深呼吸をして翔平に西尾さんから聞いた話をする。

「研究チームから外れたって聞いた。本当?」

「お前、どうしてそれを? ……あぁ。もしかして西尾か」

 どうやらすぐに話が結びつくあたり、彼女の言った翔平との関係もあながち嘘ではないのかもしれない。

「ねぇ、水曜日に会議を休んだのが原因なの?」

「それは違う」

「でも西尾さんはそう言った。わたし翔平の迷惑にだけはなりたくなかったのに」

 わたしのひと言で翔平の表情が変わった。明らかに不満をあらわにしている。

「俺の迷惑ってなんだよ。俺が俺の意志でやったことを、勝手に解釈するな」

「でも、結果的にチームから抜けることになってるじゃない。西尾さんだって……」
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