冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「西尾、西尾って、お前は俺より他人のあいつの言葉を信じるのか?」

 違うと言い切れずに黙ってしまった。そんなわたしを見て翔平がため息をつく。

「なぁ、そんなに俺の言葉が信じられないのか? いつだって瑠衣の言葉に耳を傾けてきたし、瑠衣や悠翔のことを考えてる。それを否定される俺の気持ちはどうなるんだ」

「でも、自分のことを犠牲にしてほしくないの」

「だから何度も言ってるだろ。俺はそんなつもりないって」

 彼のイライラが伝わってくる。

「だったらどうしてチームを抜けたの?」

「言ったって、どうせお前は聞く耳もたないだろ」

 諦めた様子の翔平にわたしは怒りを抑えられなかった。

「説明してくれないなら、もういい」

 バッグを手にして立ち上がる。

「送っていく」

 翔平がわたしの手を掴んだけれど、振り払った。

「ひとりで帰る。考えたいことがたくさんあるから」

「そうか、勝手にしろ」

 意地を張るわたしに、翔平は愛想をつかしたみたいだ。

 わたしはそのままマンションを出ると、駅に向かって早足で歩いた。

 翔平のバカ。なんでわかってくれないの。

 悔しくて涙がにじむ。なぜわたしの気持ちが伝わらないのだろうか。

 好きだから心配だし、好きだから自分を犠牲にしてほしくない。その気持ちは三年前からずっと変わらない。それなのにまた同じようなことがあったら、わたしのあの三年前の決心は無駄になってしまう。

 どうしてうまくいかないのかなぁ。

 お互いを思い合う気持ちは間違いないはずなのに、気持ちがすれ違う。

 どうすればいいのかわからないまま、わたしは一週間ほど過ごした。




 週末土曜日。悩みを吹き飛ばすような気持ちいい快晴。今日は悠翔の保育園の親子運動会だ。両親も応援に来てくれる。

「さあ、頑張ろうね! えいえいおー」

「おー」

 保育園ではひまわり組の悠翔が黄色の色帽子をかぶって、他の子の後ろにきちんと並んでいる。あんなに小さいのにみんな先生の言うことを聞けてえらいなぁ。小さな子たちは並んでいるだけでもかわいい。ここ最近悩んでばかりいたから、こうやってゆっくり子供の成長を感じる機会がもててよかった。

 大勢の保護者に交じり観客席の後ろの方に立って見ていると、ドンッと誰かがぶつかってきた。

「痛いっ」
< 92 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop