冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 あまりの勢いに思わずしりもちをついた。どうやら園児の兄だろうか。小学生の子供が全速力でぶつかったらしい。

「ごめんなさい」

 勢いよく頭を下げ、わたしを心配そうな顔で見ている。十分反省がうかがえる。

「大丈夫。でも小さい子がたくさんいるから、走らないようにね」

「はい」

 少年は最後にもう一度わたしに頭を下げて去っていった。

 しかしなかなか痛い。右足に違和感を持ち体重をかけると痛みが走った。我慢できないほどではないと思っていたけれど、競技がはじまり悠翔との親子競技の順番が近付いてくると痛みが増した。

 これはちょっとやばいな。父に代わりを頼もう。そう思って競技の集合場所に父を連れていったのだが。

「いや。じいじ、いや」

 悠翔はプンと横を向いたまま、地面に座り込んで動かない。

「ねえ、ママ足が痛くて走れそうにないんだ。だから今日はじいじと玉入れしよう」

「いやなの!」

 普段は大好きなじいじだが、周りはみんなパパやママと並んでいる。それを見てどうしても嫌だと駄々をこねているのだ。

「先生とする?」

 担任の先生も困って声をかけてくれている。しかし悠翔はかたくなに頷かない。

「じゃあ、仕方ないのでわたしが出ます。あの順番は最後に――」

「いえ、その必要はないです。俺が出ますから」

 声を聞いて驚いた。振り向いた先には翔平が立っていたからだ。

「ごめん、遅くなって」

「え、あの」

 どうして今日ここにいるの? わたし運動会があるなんて言ってない……あ、冷蔵庫の横のコルクボードだ。きっとそこで日程を確認したに違いない。

 驚いているわたしを後目に翔平は悠翔に近付く。すると悠翔は自然に彼に両手を伸ばし――。

「パパ」

 わたしは悠翔の言葉に目を見開いた。翔平も驚いたのか固まってしまっている。

「パパ!」

 もう一度大きな声で悠翔が翔平を呼んだ。

「悠翔っ」

 翔平が悠翔を抱き上げて抱きしめる。頬と頬をギュッとくっつけて、力いっぱい。悠翔はそのスキンシップがうれしくてキャッキャと声をあげている。

 けれど翔平は悠翔を抱きしめたまま、みんなから背を向けた。悠翔の頭に顔をうずめているので表情はわからないが、耳や首が赤い。

「翔平?」

 一歩近付き彼の顔を見る。すると奥歯をかみしめて、きつく目をつむっていた。感情が高ぶってそれを必死になって抑えている。
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