冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「いったいどっちなのよ」

 いつもは歯切れのいい翔平なのに、こんな言い方をするなんてよっぽど嫌な相手なのかもしれない。

「今日で俺たちの中にあるわだかまりを解消しておきたい」

「わかった」

 わたしもそれは同じ意見だ。いつまでもぎくしゃくしたままでいたくない。車の外の景色を眺めながら目的地に到着するまで静かにしていた。

 五分ほどして車が止まったのはコーヒーが美味しいという有名なカフェだった。彼にエスコートされて店内に入ると「いらっしゃいませ」の店員の声に奥の席に座っていた女性が笑顔で振り向くのが見えた。

「えっ……西尾さんっ」

 どうして今日わたしをここに連れてきたの?

 でもここにいるのが彼女だとわかって、翔平が『会ってほしい人がいる。本当は会わせたくないけど』って言った意味がわかった。

 最初は笑顔を浮かべていた西尾さんだったが、翔平の後ろにいるわたしの姿を見て明らかに顔を曇らせた。どうやら彼女もわたしが今日ここに来ることを知らされていなかったらしい。

 翔平とわたしが西尾さんの座っている席に向かう。

「君島くん、これはどういうこと? ふたりだけで会うと思っていたのに」

「俺は、そんなことひと言も言ってない。瑠衣、座って」

「うん」

 促されて翔平の隣に座る。重苦しい雰囲気の中注文したコーヒーが目の前に並ぶ。翔平がわたしにミルクと砂糖を寄せてくれたので、入れてひと口飲んだ。そうでもしなければこの重苦しい雰囲気に耐えられそうにない。

「……だって、わたしだってミルクも砂糖も必要なのに、なんで彼女に渡すの?」

「へ?」

 唐突な西尾さんの言葉にきょとんとしてしまう。いったいなんの話をしているのだろうか。

「すみません、先に使ってしまって――」

「そういう意味じゃない。どうしてこの女よりわたしを優先してくれないの?」

 目に涙をにじませる西尾さんを見て、わたしはそれ以上の言葉をぐっと飲み込んだ。彼女はずっと翔平に話をしているのだ。わたしなんかきっと目に映っていない。

「俺が優先するのは瑠衣だけだから。それは出会ってからずっとそうだった」

 驚いて彼を見る。まさかそんな気持ちでいてくれたなんて今まで思ってもいなかった。
< 96 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop