冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
「どうして? わたしの方が先に出会って好きになった。仕事だって一緒にできる、海外に行ったって足をひっぱらないわ。だからねぇ、どうしてわたしじゃないの?」

 涙目の彼女は翔平に訴えかけている。きっと長年翔平に思いを寄せてきたのだろう。諦められずにそばにいる関係を続けてきたに違いない。

 自分を傷つけた相手だけれど、恋する気持ちはわかる。目の前の泣きそうな彼女を見て責める気にはなれなかった。

「どうしてって、それはお前が瑠衣じゃないからだ。瑠衣以外無理なんだよ」

 翔平の言葉に胸が苦しくなる。こんな風に切なくさせるなんてずるい。目の前に今にも泣き出しそうな人がいるのに、胸のうずきが止められない。

 翔平がはっきり言い切った言葉に、彼女は涙をこぼした。しかしそんな彼女を見てもなお、言葉を続ける。

「だからこれからは瑠衣に近付くな。俺が研究チームを抜けたのは、不正を隠そうとするからだ。何度も俺が是正しようとしても、全部お前たちが突っぱねた。そんなチームにいてなにになる?」

「でも、些細なことよ」

 彼女の反論に首を振った。

「俺は西尾のこと女としては見れなかったけど、研究者としては評価してた。残念だよ」

 西尾さんは悔しそうに唇をかんだ。そしてバッグからハンカチを取り出して涙を拭うと立ち上がった。

 そして無言のまま出ていってしまった。

 その姿をわたしたちは、じっと黙って見送った。

「俺たちも出ようか」

 修羅場を繰り広げたことで、少なからずお店やお客さんに迷惑をかけている。わたしたちは車に乗って実家に向かう。

「悪いな、今日は嫌な気持ちにさせて」

「ううん。西尾さんとわたしが話した内容知っていたの?」

「予想はしてた。彼女にはずっと気持ちを打ち明けられていたから」

 さっきもそんな言い方だった。

「学生のときからああなんだ。俺の周りの女をけん制することがあった。今回みたいに実害があったわけじゃないから、放っておいた俺が悪いんだけどな」

 以前にも同じようなことがあったらしい。

「それで、西尾からはなんて言われたんだ?」

 わたしは二度会ったときの話をした。

「翔平は研究を続けたかったのに、子供がいるから給料のいい病院に勤務することになったとか、わたしの面接の日の会を欠席して研究チームを外されたとか」
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