冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 悠翔やわたしが翔平のお荷物になっていると感じるエピソードを話すと胸が痛くなる。

「はぁ、勝手に向こうの都合のいいように解釈しやがって」

 苦々しい顔の翔平は、わたしの顔を見てため息をついた。

「そんな嘘を信じたのか、お前は」

「……ごめんなさい。わたしの中で自分と悠翔の存在が翔平の重荷になるかもしれないって気持ちがどこかにあったから、彼女の言葉をうのみにしてしまったんだと思う」

 今になって冷静に考えればそう思うのだけれど、実際あのときのわたしは自分の意見が正しいと凝り固まっていた。

「帰国後病院勤務しているのは、現場で命を救う仕事がしたいと思ったからで、研究チームは俺から抜けた。それはさっきの話にも出てきただろう」

「うん」

「ちゃんと話をしなかった俺も悪い。でも瑠衣は俺が瑠衣や悠翔のためにやっていることが俺の負担になっているって思うみたいだけど、違うから。むしろふたりは俺の喜び。だからそれ奪わないでくれ」

「翔平……だって」

 車が赤信号で止まる。

 言い返そうとするわたしの唇に、彼の人差し指が当てられて発言を止められる。

「瑠衣が困っているときに手を差し伸べたいし、悠翔が体調が悪いときは俺が看病したい。その役目を他の誰かに託したくはないんだよ」

 翔平はわたしの左手を両手で包んだ。

「瑠衣と悠翔のために俺がしたいと思っていることは、迷惑や重荷なんかじゃない。それを制限されることの方が俺にとってはストレスだよ」

「わたしなにもかも自分の想像で判断していた。翔平の気持ち全然考えてなかった。ごめんなさい」

 相手の気持ちを想像することは大事だ。けれど決めつけてしまっては意味がない。わたしは周りの意見や自分の想像を優先して、肝心の翔平の本音を見落としていたんだ。

「俺も伝える努力が足りなかった。不安にさせた俺が悪い。だから――」

「ん?」

「今日は埋め合わせをさせてくれ。これから明日の夜まで、お前と悠翔を独占したい」

「いいけど……なにするの?」

 ニコッと笑った翔平がアクセルを踏み込む。

「とりあえず、悠翔を迎えに行く。話はそれから」



 高速に乗って一時間と少し。

 翔平がわたしたちを連れてきたのは、葉山にある一軒の別荘だった。波の音も聞こえ木々に囲まれたモダンな建物にわたしは思わず声をあげた。

「素敵! 急だったのに、よく借りられたね」
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