冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
 これだけ素晴らしい施設なのだ。おそらく何カ月も前に予約しなければ普通は宿泊できないだろう。

 けれど翔平の返事はわたしの度肝を抜いた。

「買ったんだ。叔父から安くな」

「待って、なんて言ったの?」

「え、だから買ったんだ。家族ができたって言ったら、安くしてくれた」

「は?」

 驚いてその場に固まってしまったわたしを放って、チャイルドシートから悠翔を下ろすと一緒に入口に走っていく。

「ねぇ、買ったってどういうこと?」

「悠翔と瑠衣にプレゼントだよ」

 だからそれが意味がわかんないのにっ。

 まだ車の前で立っているわたしを後目に、ふたりはさっさと鍵を開けて中に入ってしまった。

「もう!」

 聞きたいことはたくさんあるけれど、それより今は楽しむことにした。それくらい翔平と悠翔の笑顔が眩しかったから。

 到着してすぐに翔平が庭で炭をおこしはじめた。どうやら以前の持ち主の叔父さんがすべて譲ってくれたようで、家具も家電もそろっており一泊程度は不自由することはなさそうだ。

 来るときに買ってきた食材をキッチンで切って庭に運ぶ。実家はここまで広い庭はなくかつ住宅街なので、悠翔はバーベキュー自体がはじめてだ。

「あちち、ダメね」

「そうだ、熱いから気を付けないとダメだぞ」

 翔平の言うことを聞いて頷く悠翔は、庭に敷き詰められた石を重ねて遊んでいる。日が落ちて肌寒いが、翔平が防寒着もちゃんと用意してくれていたので火をくべながらお肉や野菜を焼いていく。

「悠翔、おいでー」

 テラスにある水道で手を洗って、翔平のところに行く。すでにいい香りが漂っていて、はじめて見る光景に悠翔は手をたたいて「ます!」を連呼している。

「ほら、熱いから気を付けろよ」

 ソーセージやコーン。子供の好きそうなものや小さく切ったお肉もお皿にのせてもらった悠翔はうれしそうにキャンピングチェアに座り足をばたつかせて食べはじめた。

「ほら、熱いから、フーフーして」

 自分で食べたがる悠翔だが、まだ目が離せない。そんなわたしの目の前に翔平がレタスでつつんだお肉を差し出してくれた。

「ほら、あーん」

 わたしはちょっとためらったけれど、大きく口をあけてほおばる。

「ん~おいひい」

 思わず声をあげるほどだ。

「おいしいねぇ」

 わたしの声に悠翔も同じように言ってにこにこしている。

「よかった。うまいかぁ悠翔」
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