悪女は恋人たちを手放した。恋人たちはそれを許さなかった。
「ねぇ?手からで満足なの?きっと口からだともっと甘いよ?」
きゅるるんっと大きな瞳をキラキラ輝かせてルークが私を見つめる。
その愛らしさと言ったらもう何に例えたらいいのか。
「そうね。口からもよ、ルーク」
「はーい」
ルークの提案を受けて微笑めばルークは可愛らしい顔からは想像出来ないほど妖艶な笑みを浮かべて自分の口に苺を入れた。
それから数回咀嚼したあと小さくなった苺を私の口へ直接入れる。
たった数秒の出来事だったがまるで深いキスをしているかのようなゆったりとした時間が流れる。
ルークの唇が私から離れた時、どこか切ない気持ちになった。まだ足りない。もっと欲しいと思う感覚だ。
「おいしいね、エマ」
「ええ」
可愛らしくルークが私に微笑む。
だが彼もリアムと同じく私の被害者。彼もまた私を恨んでいるのだろう。
彼は私の国の国民でいわゆる遊び人と言うやつだ。おそらくは金持ちの女の子をターゲットとして遊んでおり、私もそのターゲットの1人だった。
たまたまお忍びで街で遊んでいた私に声をかけ、私を誑かすつもりが、逆に私に気に入られ、ここへ連れ去られたと言う訳だ。
私は彼の愛らしい姿と、何よりも知識の広さ、その頭の良さが気に入った。ほんの数時間だったが、彼と話してそう思ったのだ。
ルークはここへ連れ去られた時、最初は混乱するような素振りを見せたが私の目的を伝えるととりあえずは頷いてくれた。まあ、ルークはあの時頷くしかなかったのだが。
それから最初こそは戸惑っているようにも見えたが今ではすっかり調子を取り戻しこんな感じだ。
ルークは本来遊び人であり、自由だった。そんなルークをガチガチに縛る私など恨んで当然だろう。