【完】セカンドマリッジライフ
しかし当の本人である自分は華やかな業界に隠された闇に晒されて、自分の存在を消してしまいたくなった。
そんな日常の中で半ば引きこもりのような生活を送って一年。 もう表舞台での華やかな自分を望んでいない事に気が付いた。
名前を捨てて新しい人生を歩みたかった。 そんな時に六本木のバーで出会ったのが定一さんだったのだ。
東京の街を歩けば、握手や写真を強請られた。 初めは嬉しかった。 けれど段々と怖くなって、夜でも昼でも顔を隠して歩くようになった。
その日もたまたま昔仕事でお世話になった人に食事に誘われ、復帰を口説かれた帰り道だった。
ひとりきりの夜道に何だか飲み足りなくってふらりと入った飲み屋街を外れた路地裏の小さなバー。
そこで出会ったのがファンキーな身なりをした彼こそが定一さんだった。
華やかな人脈も自ら切って、業界人だった彼とも別れた。 仕事はしていない。残されたのは無駄遣いせずに貯めて来た貯金だけだった。
誰にも会わない事は幸せだった。無理して笑顔を取り繕う事もない。 でもどこか寂しくって、誰かと話したかった。自分を秋月 雪乃と知らない誰かと。