あまいお菓子にコルセットはいかが?
終.エピローグ
その日、シルフォン家の家人とメイドは朝から準備に追われていた。掃除をいつもより念入りに行い、部屋の準備と段取りに余念がない。先日ついに幸せを再び手にした愛するお嬢様に、婚約者(内定)のフランシスが会いに来るのである。
そして本日の主役であるコレットも、支度に余念がない。前日まで悩みに悩んだドレスを着て朝からずっと鏡の前に立っていた。
「ミア、どうかしら。おかしなところはない?」
鏡で全身を確認しながら、側に控えているミアに何度も聞いて確認する。
「大丈夫ですよ。綺麗に仕上がっています」
「やっぱり、あちらのクリーム色のドレスのほうが暖かそうで良かったかしら?」
「昨日試着されて、膨張色なので止めるとおっしゃっていましたよ」
きっと何を着ようが、他のドレスが良く見えるのだろう。これではいつまでたっても支度が終わらない。ミアは優柔不断なコレットの支度を終わらせるべく、広げたドレスを片付けて部屋から連れ出そうとした。
「もうじきフランシス様が到着する時間ですから、一階で待ちましょう」
「だめ、緊張するわ」
「何を弱気になっているのですか。デートなど初めてじゃないでしょうに」
「違うのよ。全然違うの。前は十歳から一緒だったから家族みたいな感覚だったの。こんなにドキドキするなんて初めてなのよ!」
「?!」
まさかの恋愛初心者発言に、ミアは開いた口が塞がらなくなった。
目の前のコレットは見るからに緊張している面持ちであり、ミアは言いようのない不安に駆られる。何とかコレットの不安を取り除こうとしたが、何をしても効果はなく、むしろ意識した分緊張が増してしまう。
そのまま、時間より少し早く到着したフランシスを、カチコチに固まって少々挙動不審な動きをするコレットが出迎えたのであった。
◇◆◇◆
最初こそ緊張していたコレットだが、フランシスと会話するうちに、徐々に緊張がほぐれていった。
ただ、緊張がほぐれると同時に、頭や顔に熱が集まり、意識がふわふわとする不思議な感覚に包まれていた。
「コレット様。お菓子をお持ちしました。こちらはフランシス様がお土産にお持ちくださったケーキです。邸の者たちにも用意してくださったのですよ」
「まあ! お気遣いありがとうございます。フランシス様」
ワゴンには、ガトーショコラ、ショートケーキ、モンブラン、チーズケーキ、フルーツタルトなど、他にも沢山の種類のケーキが並んでいた。
「なにが好みか分からなかったので全種類包んでもらいました。お好きなものを選んでください」
「ワゴンには全種類用意しましたから、おひとつ選んでください」
さりげなくミアが、コレットに食べすぎ注意を促してくれる。だがしかし、頭がぼんやりとして大好きなケーキを目の前にしたコレットは決めきれない。
(ああ、チョコレートが一番好きだけれど、イチゴも好きなのよ。出来れば全部一口ずつ――それは意地汚いからダメね……)
「決めきれないなら、二つ選んでください。二人でシェアしましょう」
「! なら、ガトーショコラとイチゴのクリームタルトにします」
まさに天の助けとばかりに、その魅力的な提案にコレットは飛びついた。
二種類のケーキを目の前に、まずは目の前のガトーショコラを口に運ぶ。チョコレートの甘味に舌鼓を打ちながら、至福を感じた。
(食べる機会が減ると、たまに食べたときに物凄く美味しく感じるものなのね。とても嬉しい発見だわ)
美味しそうにケーキを頬張るコレットを、嬉しそうに眺めるフランシスは、次は目の前のイチゴタルトを食べるかどうか尋ねた。
「はい、一口頂きます」
「では――どうぞ」
そう言って、フォークにひと切れ刺して、コレットの口元に差し出したのだ。
「! ふ、フランシス様?」
「弟とは、こうやってシェアするのでしょう?」
それは幼少期からの癖みたいなものであり、今はシェアする機会も無いので違うのですと、モゴモゴ言い訳したが、フランシスは譲ってはくれなかった。
真っ赤になりながら、フランシスの差し出したフォークからケーキを食べるが、恥ずかしすぎて味はわからなかった。
「次は私に一口頂けますか?」
「!」
この流れでいくならば、今度はコレットがフランシスに食べさせることになる。
フランシスの目を見れば、期待しているのが見て取れた。その期待に応えるべく、震える手でガトーショコラをひと切れフォークに刺し、ゆっくりと彼の口元へと運ぶ。パクリと食いつく姿を見ながら、コレットの脳内は茹で上がっていた。
「――とても甘いですね」
「そ、そうですね」
ケーキも、雰囲気も、何もかもが甘ったるい。
その雰囲気にのまれないように、思わずコルセットで締め上げた腹部に手を伸ばす。
(た、食べすぎてはいけないわ。そうだわ! ここは、どんどんフランシス様に食べていただきましょう)
再びフォークでガトーショコラを切り出すと、フランシスの口元に差し出した。
嬉しそうに食べる姿に心を奪われながら、二人は仲睦まじく過ごしたのであった。
そして本日の主役であるコレットも、支度に余念がない。前日まで悩みに悩んだドレスを着て朝からずっと鏡の前に立っていた。
「ミア、どうかしら。おかしなところはない?」
鏡で全身を確認しながら、側に控えているミアに何度も聞いて確認する。
「大丈夫ですよ。綺麗に仕上がっています」
「やっぱり、あちらのクリーム色のドレスのほうが暖かそうで良かったかしら?」
「昨日試着されて、膨張色なので止めるとおっしゃっていましたよ」
きっと何を着ようが、他のドレスが良く見えるのだろう。これではいつまでたっても支度が終わらない。ミアは優柔不断なコレットの支度を終わらせるべく、広げたドレスを片付けて部屋から連れ出そうとした。
「もうじきフランシス様が到着する時間ですから、一階で待ちましょう」
「だめ、緊張するわ」
「何を弱気になっているのですか。デートなど初めてじゃないでしょうに」
「違うのよ。全然違うの。前は十歳から一緒だったから家族みたいな感覚だったの。こんなにドキドキするなんて初めてなのよ!」
「?!」
まさかの恋愛初心者発言に、ミアは開いた口が塞がらなくなった。
目の前のコレットは見るからに緊張している面持ちであり、ミアは言いようのない不安に駆られる。何とかコレットの不安を取り除こうとしたが、何をしても効果はなく、むしろ意識した分緊張が増してしまう。
そのまま、時間より少し早く到着したフランシスを、カチコチに固まって少々挙動不審な動きをするコレットが出迎えたのであった。
◇◆◇◆
最初こそ緊張していたコレットだが、フランシスと会話するうちに、徐々に緊張がほぐれていった。
ただ、緊張がほぐれると同時に、頭や顔に熱が集まり、意識がふわふわとする不思議な感覚に包まれていた。
「コレット様。お菓子をお持ちしました。こちらはフランシス様がお土産にお持ちくださったケーキです。邸の者たちにも用意してくださったのですよ」
「まあ! お気遣いありがとうございます。フランシス様」
ワゴンには、ガトーショコラ、ショートケーキ、モンブラン、チーズケーキ、フルーツタルトなど、他にも沢山の種類のケーキが並んでいた。
「なにが好みか分からなかったので全種類包んでもらいました。お好きなものを選んでください」
「ワゴンには全種類用意しましたから、おひとつ選んでください」
さりげなくミアが、コレットに食べすぎ注意を促してくれる。だがしかし、頭がぼんやりとして大好きなケーキを目の前にしたコレットは決めきれない。
(ああ、チョコレートが一番好きだけれど、イチゴも好きなのよ。出来れば全部一口ずつ――それは意地汚いからダメね……)
「決めきれないなら、二つ選んでください。二人でシェアしましょう」
「! なら、ガトーショコラとイチゴのクリームタルトにします」
まさに天の助けとばかりに、その魅力的な提案にコレットは飛びついた。
二種類のケーキを目の前に、まずは目の前のガトーショコラを口に運ぶ。チョコレートの甘味に舌鼓を打ちながら、至福を感じた。
(食べる機会が減ると、たまに食べたときに物凄く美味しく感じるものなのね。とても嬉しい発見だわ)
美味しそうにケーキを頬張るコレットを、嬉しそうに眺めるフランシスは、次は目の前のイチゴタルトを食べるかどうか尋ねた。
「はい、一口頂きます」
「では――どうぞ」
そう言って、フォークにひと切れ刺して、コレットの口元に差し出したのだ。
「! ふ、フランシス様?」
「弟とは、こうやってシェアするのでしょう?」
それは幼少期からの癖みたいなものであり、今はシェアする機会も無いので違うのですと、モゴモゴ言い訳したが、フランシスは譲ってはくれなかった。
真っ赤になりながら、フランシスの差し出したフォークからケーキを食べるが、恥ずかしすぎて味はわからなかった。
「次は私に一口頂けますか?」
「!」
この流れでいくならば、今度はコレットがフランシスに食べさせることになる。
フランシスの目を見れば、期待しているのが見て取れた。その期待に応えるべく、震える手でガトーショコラをひと切れフォークに刺し、ゆっくりと彼の口元へと運ぶ。パクリと食いつく姿を見ながら、コレットの脳内は茹で上がっていた。
「――とても甘いですね」
「そ、そうですね」
ケーキも、雰囲気も、何もかもが甘ったるい。
その雰囲気にのまれないように、思わずコルセットで締め上げた腹部に手を伸ばす。
(た、食べすぎてはいけないわ。そうだわ! ここは、どんどんフランシス様に食べていただきましょう)
再びフォークでガトーショコラを切り出すと、フランシスの口元に差し出した。
嬉しそうに食べる姿に心を奪われながら、二人は仲睦まじく過ごしたのであった。