能力を失った聖女は用済みですか?
霧の渦巻く世界は、ゆっくりと回転速度を緩めると、やがて全貌を現し始めた。
白く美しい大理石の壁。
薔薇の模様のタペストリー。
赤いベルベットの調度品。
邪神に似つかわしくないその場所には見覚えがあった。
この世界に来て、何もわからず不安でいっぱいだった私に、優しく声をかけ、頻繁にお茶に誘ってくれた人。
気さくで美しく、誰からも愛されたその人は……亡くなったロランの王妃様。
ここは、王妃様の部屋だ。

「カイエン様……私達は、王宮の中にいるようです」

「ロランの王宮か……邪神の腹の中、だな」

最初国王陛下は、王妃様の部屋をアイーシャには使わせなかった。
だけど、時間が経って気が変わったのか、ある日あっさりと部屋を渡したのだ。

『久しいな、聖女よ』

声に振り返ると、そこにはラシッドが立っていた。
でも、王子の声ではない。
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