アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「それなら嬉しいです。クシャースラ様にも同じことを言われましたが、オルキデア様にも言って頂けて嬉しいです」
「アイツにも同じことを言われたのか?」
「この屋敷に移送……じゃなかった。お引っ越しをした際に」

 クシャースラに先を越されたのを知って、少しむっとする。
 最初にアリーシャと出会って、彼女を保護したのは自分なんだが……。

 そこまで考えて、オルキデアは我に返る。

(まただ!? 何を考えているんだ。俺は!?)

 まさかクシャースラに嫉妬しているのかーー先を越されて。
 アリーシャとは、一時的な関係を持っているだけに過ぎない。
 結婚を解消して、アリーシャがこの国での生活に慣れていったら、自分よりいい男と出会って、やがて結ばれるだろう。
 それまでは、自分がアリーシャを気にかける。ただ、それだけではないか。
 それなのに、一体何を考えているのかーー。

 一人慌てるオルキデアを不思議そうに見つめてくるアリーシャに気付き、咳払いをして誤魔化す。

「とにかく。君はもう一人じゃないんだ。誰も心配しないと言うな。それは君を心配する人間に対して失礼に当たるからな」
「はい、すみません……」
「謝るのもだ。君は何でも謝りすぎるところがある。……もう少し、自分に自信を持て」

 今までの扱いが扱いだったから、すぐに自信は持てないだろう。
 これからは少しずつ「自分」を持って欲しい。
 いつの日か、この国で、オルキデアの手が届かないところで生きていく日が来た時、周囲に負けず、強く生きていけるように。

「はい……」

 自信なさげに、けれどもはにかむように微笑むアリーシャに、またオルキデアの心臓が揺れる。
 一体、自分はどうしてしまったのだろう。
 そんなことを考えながら、上官が持って来た結婚祝いを黙々と片付けたのだった。
< 172 / 284 >

この作品をシェア

pagetop