アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「笑ってない。俺もあの二人が羨ましいと思っていたくらいだ」
「本当ですか?」
「本当だ。お前と同じ気持ちだった。俺たちも真似したいって思っていたんだ」
「そうですか……」
「だから、お前からしてくれて嬉しい。……明日もやってくれるか?」
「はい……」
小さく頷いたアリーシャの鼻に軽く口づけると、ようやく頬から手を離す。
地面に置いていたカバンを持ち直すと、肩越しに振り返る。
「今度こそ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ……」
門から出てしばらく歩くと、後ろから「オーキッド様!」と呼びながら追いかけて来ていた。
振り返ると、両手で弁当包みを持ったセシリアが走り寄って来たのだった。
「オーキッド様、お待ち下さい……!」
「セシリア、どうかしたのか?」
「アリーシャさんから、いま屋敷を出たばかりだと聞いて追いかけて来ました……。クシャ様がお弁当を忘れて出てしまったので、届けて頂けませんか?」
普段は真面目な親友ではあるが、よく忘れ物をして、愛妻のセシリアに怒られている。
これまでも、度々、セシリアに頼まれて、オルキデアが忘れ物を届けていた。
「わかった。……全く、アイツにも困ったものだな」
「今日から仕事に戻ると言っていたので、お弁当の存在を忘れてしまったのかもしれません。すみませんが、よろしくお願いします」
セシリアから弁当を預かると、オルキデアは軍部に向けて歩き出す。
(クシャースラの奴……)
クシャースラは真面目な性格からしっかり者に思われがちだが、士官学校時代から割と抜けているところがあった。
あちこちに物を置き忘れ、休日に出掛けた時には店に財布を忘れ、帰省した際には大事な荷物を実家に忘れて送ってもらったことも一度や二度ではない。
(あれでも、肝心なものは忘れたことないからな。そこはアイツらしいと言えばいいのか)
さすがに忘れ物の多いクシャースラも、教材や武器などその時々で重要な物を忘れたことはない。
だからこそ、愛妻家のクシャースラが愛妻弁当を忘れて出掛けてしまうのが不思議でならないのだが……。
(ん? 弁当……)
オルキデアはセシリアから預かった弁当を見ると、あっと小さく口を開く。
そして、誰にも見られていないにも関わらず、誤魔化すように咳払いをしたのだった。
(遣いをさせたんだ。一言くらいは言わせてもらうぞ)
それからは、久方ぶりの軍部に向けて、オルキデアは歩いて行く。
弁当を忘れた親友に、どんな小言を言おうかと考えながら。
「本当ですか?」
「本当だ。お前と同じ気持ちだった。俺たちも真似したいって思っていたんだ」
「そうですか……」
「だから、お前からしてくれて嬉しい。……明日もやってくれるか?」
「はい……」
小さく頷いたアリーシャの鼻に軽く口づけると、ようやく頬から手を離す。
地面に置いていたカバンを持ち直すと、肩越しに振り返る。
「今度こそ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ……」
門から出てしばらく歩くと、後ろから「オーキッド様!」と呼びながら追いかけて来ていた。
振り返ると、両手で弁当包みを持ったセシリアが走り寄って来たのだった。
「オーキッド様、お待ち下さい……!」
「セシリア、どうかしたのか?」
「アリーシャさんから、いま屋敷を出たばかりだと聞いて追いかけて来ました……。クシャ様がお弁当を忘れて出てしまったので、届けて頂けませんか?」
普段は真面目な親友ではあるが、よく忘れ物をして、愛妻のセシリアに怒られている。
これまでも、度々、セシリアに頼まれて、オルキデアが忘れ物を届けていた。
「わかった。……全く、アイツにも困ったものだな」
「今日から仕事に戻ると言っていたので、お弁当の存在を忘れてしまったのかもしれません。すみませんが、よろしくお願いします」
セシリアから弁当を預かると、オルキデアは軍部に向けて歩き出す。
(クシャースラの奴……)
クシャースラは真面目な性格からしっかり者に思われがちだが、士官学校時代から割と抜けているところがあった。
あちこちに物を置き忘れ、休日に出掛けた時には店に財布を忘れ、帰省した際には大事な荷物を実家に忘れて送ってもらったことも一度や二度ではない。
(あれでも、肝心なものは忘れたことないからな。そこはアイツらしいと言えばいいのか)
さすがに忘れ物の多いクシャースラも、教材や武器などその時々で重要な物を忘れたことはない。
だからこそ、愛妻家のクシャースラが愛妻弁当を忘れて出掛けてしまうのが不思議でならないのだが……。
(ん? 弁当……)
オルキデアはセシリアから預かった弁当を見ると、あっと小さく口を開く。
そして、誰にも見られていないにも関わらず、誤魔化すように咳払いをしたのだった。
(遣いをさせたんだ。一言くらいは言わせてもらうぞ)
それからは、久方ぶりの軍部に向けて、オルキデアは歩いて行く。
弁当を忘れた親友に、どんな小言を言おうかと考えながら。