祈る男と渇いた女
苦しみながら旅立っていかれたので、本当に辛かったのです。
苦しみを代わってあげたかった。自分の命をあげたかった。でも苦しみや死を前にしてわたしは無力でした」
渇いた女の話を聞いて、祈る男は思わず手を合わせました。
「あなたは無力じゃありません。あなたの愛は、お亡くなりになった方々に届いていますよ。とても感謝されているはずです。自分を責めないで下さい」
祈る男の優しい言葉に、渇いた女も励まされたのか、少し落ち着いたようでした。
「ごめんなさい。突然でびっくりされたでしょうね」
祈る男は小さく微笑み、
「そんなことはありません。人の死、それも一度に三人もの方がお亡くなりになれば、誰も気が動転します。しかも、あなたが毎日のように介護されていた患者さんだったなら、なおのことでしょう」
と女を労わりました。
「ありがとう……」
沈黙の後、渇いた女の顔が少し晴れやかになると、祈る男に会釈をして帰っていきました。
祈る男は、彼女の悲しみが少しでも癒えるよう、心の中で祈りました。
その日から、渇いた女は祈る男のお店によく買い物に来るようになりました。決まって果物を買って帰るのですが、渇いた女から話を聞くうちに、パン屋の仕事をしていて、仕事がない日はほとんど一日中施設の中で介護や看護のボランティアをしていることを知りました。
祈る男は、渇いた女の優しさと、命がけの使命感にとても心を動かされました。
渇いた女も祈る男の深い優しさが、本物だと直感的に感じていました。
やがて渇いた女は祈る男に好意をもちました。
祈る男も渇いた女を好ましいと思うようになりました。
ところが渇いた女が恋心を持った瞬間、彼女の激しい苦悩がはじまりました。
性的な虐待を受けた自分の忌まわしい過去の出来事が、渇いた女の心を苦しめたのです。
もし彼にあたしの醜い過去の出来事をすべて話したら、彼は気味悪がってあたしから去っていくにちがいない。それならばいっそ、このまま気持ちを伝えずにいたほうがいいのかもしれない。でも、彼は本当に愛に満ちている人のようだから、もしかしたら、あたしの忌まわしい過去を全て受け入れてくれるかもしれない。
そんな渇いた女の苦しみなど知る由もなく、祈る男は彼女と話せることがとても楽しみで、彼女の笑顔を見ただけで、幸せを感じるほど好きになっていました。
苦しみを代わってあげたかった。自分の命をあげたかった。でも苦しみや死を前にしてわたしは無力でした」
渇いた女の話を聞いて、祈る男は思わず手を合わせました。
「あなたは無力じゃありません。あなたの愛は、お亡くなりになった方々に届いていますよ。とても感謝されているはずです。自分を責めないで下さい」
祈る男の優しい言葉に、渇いた女も励まされたのか、少し落ち着いたようでした。
「ごめんなさい。突然でびっくりされたでしょうね」
祈る男は小さく微笑み、
「そんなことはありません。人の死、それも一度に三人もの方がお亡くなりになれば、誰も気が動転します。しかも、あなたが毎日のように介護されていた患者さんだったなら、なおのことでしょう」
と女を労わりました。
「ありがとう……」
沈黙の後、渇いた女の顔が少し晴れやかになると、祈る男に会釈をして帰っていきました。
祈る男は、彼女の悲しみが少しでも癒えるよう、心の中で祈りました。
その日から、渇いた女は祈る男のお店によく買い物に来るようになりました。決まって果物を買って帰るのですが、渇いた女から話を聞くうちに、パン屋の仕事をしていて、仕事がない日はほとんど一日中施設の中で介護や看護のボランティアをしていることを知りました。
祈る男は、渇いた女の優しさと、命がけの使命感にとても心を動かされました。
渇いた女も祈る男の深い優しさが、本物だと直感的に感じていました。
やがて渇いた女は祈る男に好意をもちました。
祈る男も渇いた女を好ましいと思うようになりました。
ところが渇いた女が恋心を持った瞬間、彼女の激しい苦悩がはじまりました。
性的な虐待を受けた自分の忌まわしい過去の出来事が、渇いた女の心を苦しめたのです。
もし彼にあたしの醜い過去の出来事をすべて話したら、彼は気味悪がってあたしから去っていくにちがいない。それならばいっそ、このまま気持ちを伝えずにいたほうがいいのかもしれない。でも、彼は本当に愛に満ちている人のようだから、もしかしたら、あたしの忌まわしい過去を全て受け入れてくれるかもしれない。
そんな渇いた女の苦しみなど知る由もなく、祈る男は彼女と話せることがとても楽しみで、彼女の笑顔を見ただけで、幸せを感じるほど好きになっていました。