祈る男と渇いた女
渇いた女は、林檎やオレンジをバスケットに入れると、祈る男のところに持ってゆき、
「お願いします」
と聞き取れないほど小さな声でいいました。
祈る男はすぐに、
「ありがとうございます」
と優しい笑顔をかえしました。
「おいくらになりますか?」
滅多に初対面の人に笑顔を見せない渇いた女が、微笑みながら尋ねました。
二人には不思議なくらい、お互いの声が耳に心地よく響くのです。
「うちのお店、初めてですよね?」
「ええ、こんなところにお店があるなんて、気づきませんでした」
「お近くですか?」
祈る男が遠慮がちに聞くと、
「近くの教会の施設にボランティアでよく行きます」
渇いた女はすぐに答えました。
「あの教会ですね」
祈る男はお店から通りを隔てた、斜め前の教会を指差しました。
「あそこには沢山の苦しみを背負った方々が大勢いるのです。わたしはあの方たちの苦しみを思うと、いてもたってもいられないのです」
ふだん滅多に心情を吐露しない渇いた女でしたが、なぜか祈る男には、心を許してしまいました。
「この果物は施設の方のために買いにこられたのですね」
祈る男は微笑みながら果物を丁寧に袋に詰めました。
「はい、みなさん、とても楽しみにしてるのです」
そう言うと、渇いた女はお金を払って、お店を出て行こうとしました。
祈る男は慌てて、レジの下から苺を一パック掴むと、
「待ってください!」
渇いた女を呼び止め、手に持った苺を彼女の買い物袋に入れました。
「困ります」
渇いた女は、慌てて断ろうとしましたが、
「寄付させてください。施設の方々に食べていただけると、嬉しいのです」
渇いた女は、みずみずしい苺をちらと見て、
「ありがとうございます」
輝くような笑顔でお礼をし、教会の建物の方へ駆けて行きました。
女の懺悔
それから七日後のことでした。
祈る男がお店を閉めている時に、渇いた女が息せき切って駆け込んで来ました。
「あ、あの……」
彼女の表情は前に見かけた時とは打って変わって、何か思い詰めたように暗く沈んでいるのです。
「どうなさったのですか?」
祈る男が遠慮がちに聞きました。
渇いた女は他に誰もいないのを確認して、一気に話し始めました。
「今日、わたしが介護していた利用者さんが、一度に三人も亡くなったのです。
「お願いします」
と聞き取れないほど小さな声でいいました。
祈る男はすぐに、
「ありがとうございます」
と優しい笑顔をかえしました。
「おいくらになりますか?」
滅多に初対面の人に笑顔を見せない渇いた女が、微笑みながら尋ねました。
二人には不思議なくらい、お互いの声が耳に心地よく響くのです。
「うちのお店、初めてですよね?」
「ええ、こんなところにお店があるなんて、気づきませんでした」
「お近くですか?」
祈る男が遠慮がちに聞くと、
「近くの教会の施設にボランティアでよく行きます」
渇いた女はすぐに答えました。
「あの教会ですね」
祈る男はお店から通りを隔てた、斜め前の教会を指差しました。
「あそこには沢山の苦しみを背負った方々が大勢いるのです。わたしはあの方たちの苦しみを思うと、いてもたってもいられないのです」
ふだん滅多に心情を吐露しない渇いた女でしたが、なぜか祈る男には、心を許してしまいました。
「この果物は施設の方のために買いにこられたのですね」
祈る男は微笑みながら果物を丁寧に袋に詰めました。
「はい、みなさん、とても楽しみにしてるのです」
そう言うと、渇いた女はお金を払って、お店を出て行こうとしました。
祈る男は慌てて、レジの下から苺を一パック掴むと、
「待ってください!」
渇いた女を呼び止め、手に持った苺を彼女の買い物袋に入れました。
「困ります」
渇いた女は、慌てて断ろうとしましたが、
「寄付させてください。施設の方々に食べていただけると、嬉しいのです」
渇いた女は、みずみずしい苺をちらと見て、
「ありがとうございます」
輝くような笑顔でお礼をし、教会の建物の方へ駆けて行きました。
女の懺悔
それから七日後のことでした。
祈る男がお店を閉めている時に、渇いた女が息せき切って駆け込んで来ました。
「あ、あの……」
彼女の表情は前に見かけた時とは打って変わって、何か思い詰めたように暗く沈んでいるのです。
「どうなさったのですか?」
祈る男が遠慮がちに聞きました。
渇いた女は他に誰もいないのを確認して、一気に話し始めました。
「今日、わたしが介護していた利用者さんが、一度に三人も亡くなったのです。