祈る男と渇いた女
「人を愛するには、まず自分を愛することです。自分を愛せる人は、自分を愛するように、人を愛せるのです。どんな人でも過ちを犯すものです。どんな人でも愚かしいことや、胸えぐられる悲しい経験をするものです。だからといって、いつまでも過去の自分の姿に囚われてはなりません。悲しみ憎しみの虜になってはいけません。今のあなたは、もうその事に気づき同じ過ちを繰り返してはいないでしょう。自分を責めてもなんの解決にもなりません。自分を責めるという行為は愛から程遠いものです。あなたが今一番にすべきことは、自分を責めることを止め、悲しみも憎しみも過ちでさえも赦し手放すことです。人はそうして毎日多くのことを学び、進化する生き物なのです。あなたの苦しみがどんなものなのか、私にはわかりません。ですがあなたが真実の愛に目覚めるために、自分を赦し自分を愛する勇気を持つことが必要なのです」
 神父様が話し終えると、祈る男はすぐに問いかけました。
「わたしは愛する人を失いました。わたしは愛する彼女の気持ちを察していたのに、逃げ続けていたのです。わたしは過去の自分が赦せません。とても恥ずかしく情けない人間でした。だから嫌われるのではないかと、不安や恐れで、気持ちを伝えることができなくて彼女を失望させてしまったのです。私たちは一年間も心を通わせていたはずなのに」 
 そう言って祈る男が涙を浮かべると、神父様から意外な答えが返ってきました。
「その女性も同じように、辛い思いをしていたのかもしれませんよ」
「彼女が私と同じように辛い思い……」
 祈る男はどういう意味なのかまったく理解できません。
 神父様は続けました。
「人間は心が通い合い、魂が結びつくと、黙っていても自然にお互いのことがわかるようになるものです。あなた方が真に愛し合っていたのなら、あなたが感じていたことは、彼女も感じていたはずです。あなたが愛した女性が、あなたの気持ちを聞かないまま姿を消したのは、彼女もあなたと同じように、心の闇を打ち明けることができなくて、苦しんでいたのかもしれません。彼女も自分を愛せずに苦しんでいたかもしれないのです」 
 祈る男は、神父様の言葉を本当のことのように感じました。
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