短編集(仮)

 心の中では、喜びで、有頂天になって、天国に向かって、寿命を縮めながら突っ走ってる感じだけど、あたしは精一杯のクールを装って、『じゃあ、明日で』なんて言った。

 『明日一日』って、最初から言ってた、とあたしは言った後に気づいて、慌てるけど。

 それに対して葵くんは、『ああ、明日休みだし、丁度いいかもね。暇してたし』なんて返してくれた。優しい葵くん。

 あたしはずるい。
 こうやって、告白することなく、デートを取り付けてしまったんだから。

 …だって、しょうがないじゃんか。

 葵くんはあたしの友達のお兄さんなんだから。
 バレたらやばいの度合いは、他の人よりも高いんだから。

「…しょうがない、よね」

 あたしは呟く。

 いつから葵くんのこと好きになったんだっけ…と思い返す。

 多分、確か、気づいたら好きになってた。

 いつだっけ? いつからだっけ?

 思い出そうとしても思い出せないし、そもそも初恋のあたしには、恋の定義なんてわからないからいつから、なんて正確には言えない。

 恋愛漫画が好きじゃなければ、天音に借りて恋愛小説を読んだりしていなければ、自分の気持ちになんて気づいてなかったと思う。ただ、どんどん、知らず知らずのうちに好きになっていくだけで。

 そっと、葵くんとの出会いを思い返す。

 確か、あれは、1年くらい前…初めて天音の家に行った時だったはず——。

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