短編集(仮)
あたしは、日名瀬さんの家の前に来ていた。
日名瀬さんは、可愛くて、優しくて。
同じ中学校からの友達が、なずなや茜(あかね)、姫華(ひめか)、みより…の4人しかいないあたし。
あたしは、その誰とも同じクラスになれなくて、人見知りって程じゃないけど、相手から話しかけられるとぐいぐいいけるけど自分から話しかけるのが苦手なあたしは、『花ちゃんって言うんだよね。私、日名瀬天音。前後の席同士、よろしくね』と、日名瀬さんに言われて、ものすごく救われたのだ。
今日はお母さんが遅くなる、という話をしたら日名瀬さんが『じゃあ私の家に来たら? 今日ママと葵にぃがいるんだけど、それでも良かったら』と誘ってくれた。
1人の時間が嫌いなあたしは、初対面にも関わらず、笑顔で『いいの!?』なんて返事してしまったのだ。
…さすがに図々しいか。
そう思って、スマホを取り出す。
それから、落胆してスマホをまたしまう。
…連絡できない。
「やっぱりお母さん早く帰ってこられることになったみたいで」と言って断ろうと思ったのに。
…どうしよう、やっぱり、嫌な人だよなぁ。
「…日名瀬さん、か」
呟くと、後ろから「俺がどうかしたの?」と声がした。
誰かいると思っていなかったあたしは、びくっと肩を震わせる。
振り返ると、スーツを着た全く知らない人。
…日名瀬さんのお父さん? にしては若いか……。
「…あれ、俺じゃなかった? もしかして、天音の方?」