恋獄の鎖
「エバンス。それはつまり、わたくしが愛されることのない惨めな花嫁になると言いたいのね?」

「決してそのようなことを申し上げたいわけではございません」

「それならどういうつもりなのかしら」

 わたくしは怒れる女王さながらに追及の手を緩めなかった。

 エバンスもまた、言い訳は一切交えずに淡々と思うまま告げる。

「このエバンス、シェラフィリアお嬢様が誰よりも幸せになることを望んでいるだけなのです。いかに些細な懸念すら、お嬢様を煩わせる可能性があるのなら見過ごすわけにまいりません」

「物は言い様だこと」

 つまらない建前に薄い笑みがこぼれた。

 怒りと言うには冷ややかな、どちらかと言えば失望からお父様より年の離れた従順な執事の顔をねめつける。

 エバンスはもっと仕事ができると思っていたのに、これでは期待外れもいいところだわ。

「けれどわたくしは同じことを何度も言わされるのは大嫌いよ。わたくしが彼と結婚したいと言っているの。ならばあなたは何をするべきか、分かっているわよね? 分からないなんて言わせないわ」

 話はこれで終わりだとばかりにカップをテーブルに戻す。

 わたくしが産まれる前よりラドグリス家に仕えているのだ。エバンスとてわたくしを説得できると思っていたわけではないのだろう。

 しかしそれでも、説得を打ち切られた諦念を隠すこともなく頷いてみせた。

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