恋獄の鎖
 彼の本来の性格がどんなものであるのか、わたくしには知りようもない。

 初めて会った時と今この場でのどちらが彼の本性なのだとしても、いずれかの仮面を被った姿をわたくしに見せている。そしてあくまでもこの男が欺こうとするのなら、その仮面を引き剥がしたいと思った。

「申し訳ありません、シェラフィリア様。何しろ我々はラドグリス家の足元にも及ばぬ弱小貴族ゆえ、委縮してしまっておるのです」

 アインザック伯爵が慌てて取り繕う。

 わたくしは愛らしい令嬢を演じて笑ってみせた。

「遠慮などなさらないで。わたくしたちは、これから縁者になるのですもの」

「恐れ入ります。――ミハエル」

 伯爵は奥方と共にわたくしに深々と頭を下げ、一族の命運を握るミハエルの顔を見やった。


 ミハエルと親しげにしていた、見るからに庇護欲をそそる令嬢――名はリザレット・カルネリスというらしい――は、彼のことをどこまで知っているのかしら。

 一度見かけたきりだけれど、良くも悪くも純粋培養されていそうなあの令嬢をミハエルはずいぶん大切にしているようだった。

 彼らの関係や、互いに抱き合っている感情の正体はわたくしにはどうでも良く、興味もない。彼女の存在は目障りなものである。ただそれだけだ。

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