恋獄の鎖
 そこでミハエルの目が初めてお父様へと向けられた。

 お父様はもちろん一切動じることなく視線を受け止める。睨みあいとも言えない状況だけれど、アインザック伯爵は蒼白な顔でミハエルの肩に手を置いた。その手が震えているのは自らに不甲斐なさを感じているからなのか、お父様の怒りを買うことを恐れているのか、どちらかしら。


 ことの顛末はこう。

 ラドグリス家はアインザック家の持つ販路の一つに圧力をかけ、流通を差し押さえた。

 アインザック家の商売において重要な役目を担う販路ではなかったけれど、問題は販路の規模ではない。


 名門ラドグリス家が、アインザック家に圧力をかけた。


 その事実があかるみになればどうなるか。

 結果は火を見るよりあきらかだった。

「ねえ、ミハエル様。何か気に病まれることがおありですの? でしたらどうぞ遠慮なく仰って下さって構いませんわ」

 優しく微笑みかけたわたくしをミハエルは蛇蝎(だかつ)のごとく嫌悪した目で見る。

 もう取り繕うことはしないのかしら。だとしたらとても残念ね。

「言い出しにくいのならわたくしから言って差し上げましょうか。我がラドグリス家がアインザック伯爵家に圧力をかけた。そう疑っていらっしゃるのでしょう?」

 わたくしの言葉にミハエルではなくアインザック伯爵が顔色を変えた。

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