恋獄の鎖
 これまで静観していたラドグリス家が、出過ぎた杭にいよいよ制裁をくわえたと社交界に認識されてはいけない。

 騒ぎに乗じてアインザック家を善しとはしない一部の貴族たちが、ここぞとばかりに我先にとラドグリス家の威を借りて妨害に乗り出すのは目に見えている。目障りな新参者を叩き潰す絶好の機会なんだもの。見逃すような愚か者はいないわ。


 事態が表沙汰になる前に、アインザック家は何としても販路の自由を取り戻さなければならない。でも彼我の力の差は、比較するまでもなく歴然だった。


 さしものアインザック伯爵でも狙いが分からずにいたことでしょう。

 ラドグリス家と敵対するということは、王家と敵対することにも等しい。

 だから皆が商売仇になることは避けられなくても、厄介な事態を避けてラドグリス家の"縄張り"はできる限り荒らさないよう、最善の注意を払っている。アインザック伯爵家も例外ではなかった。何がラドグリス家の機嫌を損ねてしまったのか皆目見当もつかなくても仕方ないわ。

「では事実無根だと仰るのですか」

 アインザック伯爵に向けて「分かっている」とばかりに軽く頷き、ミハエルが言葉を紡ぐ。

 それに対して答えたのはお父様だった。

「あいにくと全くの偶然なのだよ」

「偶然、ですか」

 ミハエルは当然、お父様の言葉であっても納得などしていない。

 でもね、これは本当に偶然なの。

 "偶然"、お父様が新たに手を広げようとしていた事業の販路と重なった場所があった。だから我が家を優遇して下さるよう、お父様が"お願い"しただけ。

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