恋獄の鎖
 頬に両手を添えて恥じらうわたくしにアインザック伯爵は謝罪を述べる。

 我ながら何てわざとらしいお芝居だろうか。心の中で笑ってしまう。


 でもアインザック家にとって、これほど好条件な取引は滅多にあるものではない。

 跡継ぎでもない四男のミハエルを結婚させる、そんな簡単な手段でラドグリス家ときわめて友好的な親族関係が築けるのだ。

 たとえ流通経路に突如かけられた圧力がラドグリス家の仕業と見え透いていようと、ミハエルが幼馴染みの令嬢と恋仲になっていると知っていても、乗らない理由はなかった。


 綺麗ごとだけで財と地位を得た貴族はいないもの。

 あなたの家だってそうよ、ミハエル。

 あなたが知らないだけ。知らないふりをしているだけ。


 販路の一つを抑えられ、実家の危機を救うべく必死に奔走する青年と、その懸命な姿に心を打たれた大貴族の令嬢にロマンスが芽生え、激しい熱情のまま結婚する。


 もちろんそれは、不可解な婚姻へ疑念を持つであろう周囲を黙らせる為に塗り固められた嘘だ。

 でもいいの。

 わたくしだってミハエルに恋をして欲したわけではないのだから。


 ただ手に入れられないことが悔しいだけ。

「正直に申し上げればわたくしは"ささやかで平凡な幸せ"というものは理解できませんけれど、でもミハエル様と幸せな家庭を築きたいと願ってはいますのよ」

「――それは意外ですね」

 どこまでも冷ややかなミハエルの目は、すでにわたくしを映してはいなかった。

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