恋獄の鎖
 婚約披露パーティーは、それは盛大に開かれた。

 わたくしの取り巻きを気取る伯爵令嬢は予想通りミハエルを褒めそやしたし、リザレット・カルネリスも招待したわ。

「初めまして、シェラフィリア様。そしておめでとうございます。このような華やかな席にわたくしもご招待下さり、とても光栄に存じます」

 リザレットは突然の招待に驚きと戸惑いを隠せずにいたようだけれど、気丈にもわたくしに祝いの言葉を贈ったの。それをわたくしの隣で聞くミハエルの顔を、わたくしは一生忘れないでしょう。


 ミハエルは本当にリザレットを愛しているのね。

 失意と絶望とで色をなくした表情はとても綺麗だったわ。

「では、わたくしも幸せなお二人にあやかれるよう場を楽しんで参ります」

 震える声を隠せずにリザレットが一礼して去ると、わたくしはわざとミハエルに何か飲み物をもらって来るよう伝えた。

 意図は分かっているはずよ。

 わたくしの傍を離れる建前を得たのだから、リザレットの元に行って恋に破れた幼馴染みを慰めて差し上げなさいな。


 周りに気取られぬようわたくしを憎悪のこもった目で睨みつけ、ミハエルはリザレットの後を追った。

 涙にくれる"恋人"を慰め、婚約者の家で抱き締めたりしたのかしら。


 十分ほど待ってもミハエルは戻って来ない。

 それはさすがに想定外だった。

 人の婚約者をお披露目パーティーの最中に奪おうとする女という不名誉を、わたくしの一声でかけられることに思い至っていないのかしら。

 あるいは騒ぎを起こさせて、このわたくしがリザレットごときに婚約者を略奪される程度の女だと逆に貶めるつもり?

(ずいぶんと見くびられたものね)

 後者なのだと結論づけたわたくしは、二人がいるであろうテラスに向かった。

 ミハエルに失うものはない。とうに覚悟もできているのだろう。

 だけど、リザレットはどうかしら。


 テラスに繋がる窓を開け放つ。

 果たしてその先には抱き合う男女がいた。女が、リザレットがはっとした様子で涙に濡れた瞳を向ける。本当に盛り上がるまま、こんな場所で抱き合っていたのね。

 何て汚らわしい、泥棒猫。

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