受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される
「……おまえかぁ」

 戦意喪失したように、レーヴの目が落胆の色に染まる。

 目の前には、馬。
 黒々とした毛艶の良い青毛の馬が、「お呼びでしょうか」と臨戦態勢でレーヴを見ている。

 待望の馬だというのに、レーヴは気乗りしなかった。
 理由は一つ。目の前の馬は、脚が遅いのである。
 馬にしては美形な顔だちなので生徒たちからも人気があるのだが、残念なことに駑馬なのでもっぱら観賞用になっているのだ。

 ロバよりマシだと思うべきなのか。
 やる気に満ち溢れた視線を送られても、レーヴの気持ちは動かない。

 軍事パレードだけ参加するのであれば、見目は良いので自慢になったかもしれない。
 だが、今は緊急事態なのである。今は見目よりも、速さを求めている。
< 8 / 323 >

この作品をシェア

pagetop