嘘と愛
女の子の好みがわからないと言っていた隆司に、零に着せて欲しいと言って幸喜は新しい服を買ってきて渡していた。
絶対に自分からだとは言わないでと約束していた幸喜。
大学に入学する時は、匿名の支援者として零に贈り物をしたり、大学への援助金を送っていたのも幸喜だった。
なにも名乗る事が無くても、幸喜は零が実の娘だと確信していた。
この子は、赤ちゃんの事気に殺された事になっている桜に間違いない…あの優しい目は心から愛しているイリュージュにそっくりだから。
そう思って幸喜は零を見守る事にした。
親子ではないかと名乗り出るには、乳児誘拐事件と乳児殺害事件の真犯人を明らかにする事が先だと幸喜は思っていたのだ。
零が宗田ホールディングに現れたのは、姿を見なくなって17年ほど経過していた。
久しぶりに見た零は、顔立ちは幸喜にそっくりだったが仕草や話す声がイリュージュに似ていて、ずっと深い奥にしまっていた幸喜のイリュージュに対する思いが溢れてきたのを感じた。
自分が支援してきた事は零には話すことはやめよう。
言わないまま、自分は悪い父親だと思われていた方がいいだろう。
そう幸喜は思っていた。
零と和解でき、本当の椿の下へ連れて行かれたときは、感無量で…やっと会うことが出来たと感動でいっぱいだった幸喜。
大雅が距離を置いて、またなにか気持ちがすれ違ってしまったのかと思っていたが。
まさか事件の真相をここまで調べ、ディアナの事を探っていたとはちょっと予想外だった。
そして…愛するイリュージュと親しくしていた事も…。
ソファーにもたれ、幸喜は一息ついた。
話を聞いて、大雅は色々と納得ができたようだ。
「そうなんだ。じゃあ、父さんの方が零とはもうずっと前から会っていたんだね」
「そうだね、会っていたって言っても最後に会ったのは中学生になる前だから。零は、覚えていなかったと思うよ。ハッキリと名前を名乗っていたわけじゃなかったから」
「そっか。でも、椿も小さい頃に零と遊んでいたのに。全く覚えていなかったんだね」
「小さな頃の記憶って、そんなものだろう? でも、どこかで椿も零の事を覚えていたかもしれない。だから、偶然でも零の事を見かけて何かしら込みあがるものがあったんだと思うよ」
「そうだろうね」
椅子から立ち上がり、大雅は伸びをして窓の外を見た。
「俺が父さんの所に養子に来たのも、きっと運命だったんだな」
「そうだろうな、きっと」
「俺を産んでくれた母さん。驚くほどの、霊能力者だったみたいで。死者の声が聞けたり、相手の記憶を手繰って透視できたりしたらしいよ。その力を、俺は受け継いでいるようで。母さんと父さんが亡くなる事も、ずっと判っていた。…父さんのところに養子に来て、すぐに察したのは。他人ばかりって事だったけどね」
「なるほど…。お前は、僕と同じなんだな」
「え? 」
「僕も見えないのが見えるし、亡くなった人の声も聞ける。だから、いつもディアナの本心は聞こえていたよ。それでも、偽物ごっこをしていたのは。心から愛する人を、探し出す為だったんだ」