嘘と愛

「2人ともいらっしゃい。どうぞ、こちらに」

 幸喜が2人の椅子を引いてくれた。


 大雅と零、そして幸喜とイリュージュを囲んで他愛ない話から盛り上がって行った。

 幸喜が大雅がまだ中学生の時、殴り合いの喧嘩をしたことを話すと、零はとても驚いていた。
 零が見ている大雅からは、想像がつかないことで。

 大雅は

「そんな昔の事言うなよ」

 と照れていた。


 話が落ちついたところで大雅が、零との結婚を切り出した。

「父さん、俺。零と結婚することに決めたから」

 幸喜は一瞬きょんとなったが、すぐにいつもの笑顔になり。

「そうか、おめでとう。父さんは何も反対しないよ」

 いつもの優しい幸喜の笑顔で言われ、大雅もホッとした。

 零はイリュージュを見た。

「あの…お母さん…」
 
 母さんと呼ばれて、イリュージュはちょっと照れた目をした。
 その仕草は零とそっくりである。

「あのね、私。名前、改名しようと思うの」
「改名? 」

「うん。桜って名前に改名してもらおうと思って」
「桜…」

「私が産まれた時、お父さんが付けてくれた名前なの。それにね、私の死亡届けはお父さん出していないんだって」
「そう…」

「色々手続きが大変だけど、本当の名前で結婚したいから」

 嬉しくて、イリュージュの目が潤んだ。

「そうね、私も協力するわ」
「うん、有難う。お母さん」
 
 傍で聞いていた幸喜も嬉しそうに微笑んでいる。
 やっと…22年の時を経て、本当の家族が揃った。


 一人は草むらに捨てられ、一人は川岸に捨てられ事故により左手を失った。
 別々になってしまった双子は、それぞれ養女として引き取られ育ってきた。

 出生の秘密を知った零は、22年前の誘拐事件の真相を知りたくて警察官を目指し刑事になった。

 自分を捨てた父・幸喜に復讐してやろうと思っていたが。
 幸喜は子供を捨てたりしていなかった、それどころか死亡届けも出さずに生きていると信じていた。

 そして、陰ながら見守っていてくれた幸喜。
 母イリュージュも、犯罪者の汚名を着せられながらも名前を変え陰ながら子供を見守ってきた。
 
 それぞれの生きる中で「嘘」が沢山あったのは言うまでもない。
 しかしその「嘘」はみんな自分を護る為の「嘘」だった。

 嘘は悪いことだと人は言うが、嘘の中にも計り知れない「愛」があるはず。

 その「愛」の形は人それぞれだろう…。
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